宇宙線が太陽によって遮られる現象を「太陽の影」と呼ぶ。太陽の近くを通る宇宙線は太陽磁場によって曲げられ、「太陽の影」の形や方向に変化をもたらす。本課題以前に申請者は、10TeV領域の宇宙線が作る「太陽の影」を世界で初めて数値シミュレーションによって再現し、太陽コロナ磁場モデル(CSSSとPFSSモデル)に制限を加えることに成功した。本課題では、この新手法を用いて、さらに磁場に敏感な3TeV領域の「太陽の影」のデータ解析を行い、それに対応する数値シミュレーションを開発した。高密度空気シャワーアレイ(Tibet-III)で2000年以降に観測された3TeV領域の「太陽の影」について数値シミュレーションと比較した結果、以下のことを明らかにした。 (1) 2000年から2009年までの「太陽の影」の深さの時間変化を解析したところ、活動極大期(2000-2002年)において数値シミュレーションと比べて観測結果が統計的有意に浅いことがわかった。しかし、太陽爆発現象であるコロナ質量放出(CME)が発生している期間を取り除き再解析した結果、CSSSモデルとの再現性が良くなることが分かった。これは「太陽の影」にCMEが影響をおよぼすことを最初に示した成果である。 (2) 惑星間空間磁場のセクター構造の向き(Toward/Away)に伴い変動する「太陽の影」の解析を行った。その結果、「太陽の影」の方向はセクターがTowardの場合は太陽の視位置から南へずれ、Awayの場合は北へずれることを確認し、その大きさが宇宙線のエネルギーが低くなるほど大きくなることを示した。さらに詳細に数値シミュレーションと比較した結果、観測のずれの方が統計的有意に大きいことが判明した。この違いについては、太陽コロナ磁場モデルに使用している太陽表面磁場の系統的な誤差によるものか、磁場モデル自身の不定性によるものと考えている。
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