研究課題/領域番号 |
15K17628
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西岡 辰磨 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (90747445)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | エンタングルメント / 場の理論 / ゲージ/重力対応 |
研究実績の概要 |
今年度は場の理論のエンタングルメントエントロピーの構造の理解を一層推し進めるために二つの異なるアプローチを採用した。 まず一つ目のアプローチではゲージ/重力対応に基づくホログラフィーの観点から、エンタングルメントエントロピーの拡張である Renyi エントロピーと呼ばれる物理量の研究を行った。重力双対を持つ場の理論ではエンタングルメントエントロピーは「笠-高柳公式」と呼ばれるホログラフィック公式によって幾何学的に簡単に計算することができるが、Renyi エントロピーに関してはホログラフィー原理を用いてどう計算すれば良いのか、長らく知られていなかった。ところが最近、笠-高柳公式の拡張版としての Renyi エントロピーに対するホログラフィック公式が提唱された。この公式は場の理論で知られている幾つかの具体的な結果を再現するが、Renyi エントロピーの持つ特徴的な性質を満たすかどうかは検証されていなかった。本研究では提唱されたホログラフィック公式が Renyi エントロピーが満たすべきいくつかの量子的な不等式に従うかどうかを検証した。その結果、ホログラフィー原理が適用可能な物理的に尤もらしい状況下ではホログラフィック公式が正しく不等式を満たすことがわかった。 二つ目のアプローチでは、純粋に場の理論の技法のみを用いて自由スカラー場のエンタングルメントエントロピーを詳細に調べた。自由スカラー場に関しては数多くの研究がなされているが、その結果の中には相反するものが存在していた。本研究ではエンタングルメントエントロピーを定義する際に現れる余次元 2 の超曲面に境界項を導入できることに着目し、適切な項を入れることで知られている全ての結果が矛盾なく説明できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では場の理論におけるエンタングルメントエントロピーの性質を理解し、それを用いて場の理論の構造をより深く調べることを目指している。特に場の理論ではあるエネルギースケールにおける「自由度」を測る物理量を見出すことが重要であり、そのような物理量の存在は場の理論全体の空間の分類に非常に役に立つ。昨年度は自由度を測る物理量としてエンタングルメントエントロピーから定義されるある関数に着目し、その性質を自由スカラー場という具体例で詳細に調べた。そこで得られた関数は確かに自由度としての振る舞いを示すことが分かったが、その過程で一つの問題を発見した。その問題点の原因を探ると、自由スカラー場のエンタングルメントエントロピーにはいくつかの相矛盾する結果が存在することが分かってきた。そこで今年度はこの矛盾点を解消するための研究を積極的に行った。この研究により場の理論のエンタングルメントエントロピーを考える際には境界項を適切に扱う必要があることが明白になった。この結果は自由スカラー場に限らずゲージ理論を扱う上でも当てはまるため今後非常に役に立つと期待される。 エンタングルメントエントロピーの満たす不等式が上記の自由度を測る物理量の構成に役に立つことが知られているが、その拡張である Renyi エントロピーが満たす不等式も将来的な応用があると考えられる。今年度は近年提唱されたホログラフィック公式が Renyi エントロピーの満たす不等式に従うための条件を見出した。本研究課題ではゲージ/重力対応からのアプローチも取り入れており、こちらの方向性でも進捗があった。
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今後の研究の推進方策 |
場の理論におけるエンタングルメントエントロピーの具体的な計算は、自由場のような簡単な系に対してですら、非常に対称性の高い領域を選んだ場合しか厳密解が得られていない。より複雑な形状の領域のエンタングルメントエントロピーを扱うには既存の方法とは異なる新たな手法が必要になってくる。本研究課題の一つの試みとして、エンタングルメントエントロピーを非局所演算子の期待値として表すというものがある。この場合に現れる非局所演算子の性質は現状ではほとんど何も分かっていない。しかし、理論が共形対称性を持つ場合には対称性によってある程度の特徴付けが可能になる。特に非局所演算子を局所演算子の和で表す「局所演算子積展開」を駆使することで、これまでとは異なる形状の領域が扱えるようになる可能性がある。今年度はこの局所演算子積展開の手法を中心に研究を進める予定である。特に相互作用が入った場の理論における二つの領域の間のエンタングルメントエントロピーは先行研究にない課題なため、これを遂行したいと考えている。 昨年度の研究で得られた、近年提唱されたホログラフィック公式が Renyi エントロピーの満たす不等式に従うための条件は、ゲージ/重力対応が成立するような無矛盾な量子重力理論が満たすべき必要条件であると考えられる。このようにゲージ/重力対応を通して量子エンタングルメントが重力理論へ与える制限を探ることで、今後は自己無矛盾な量子重力理論の構成のヒントを探っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はいくつかの国内出張で旅費の補助があったため、研究代表者の科研費を使用する必要が無い場合があった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は海外出張で繰越金を使用する予定である。
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