研究実績の概要 |
今年度も場の量子論のエンタングルメント構造に関する研究を、ホログラフィー原理および量子情報理論的側面から行った。予てより依頼されていた、近年の場の量子論およびホログラフィー原理における量子エンタングルメントの発展に関する総括論文を執筆、発表した (Rev. Mod. Phys. 90, no. 3, 035007 (2018))。この総括論文では場の量子論におけるくりこみ群の下での量子エンタングルメントの果たす役割について当研究課題で得られた最新の研究成果を盛り込むことができた。
また昨年度行った量子エンタングルメントへの非局所的な欠損演算子を使ったアプローチをさらに掘り下げるため、今年度は共形場理論におけるスピンをもつ欠損演算子を導入し、その相関関数を対称性の観点から分類し決定した (JHEP 1809, 134 (2018))。この研究では具体的な場の量子論の量子エンタングルメントが計算できたわけではないが、スピンをもつ欠損演算子として量子エンタングルメントの新たな指標が構成できる可能性を探ることができた。
さらに今年度はくりこみ群への量子情報的アプローチを推し進めるため、エンタングルメントエントロピーおよび球面上の分配関数がくりこみ群の下でどのように振る舞いかをホログラフィー原理および場の量子論の様々な具体例を通して調べあげた。そして最も一般的な欠損演算子入りの共形場理論では、従来減少すると思われていたエンタングルメントエントロピーは一般に単調減少しない反例を構成した。また最終的に球面上の分配関数がくりこみ群の下で単調減少するという予想を立てた (JHEP 1901, 039 (2019))。この予想が正しければ、今後場の量子論のダイナミクスにより強い制限を課すことができると期待される。
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