研究課題/領域番号 |
15K17630
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡辺 陽介 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 研究員 (30733597)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | クォークグルーオンプラズマ / ダイクォーク / チャームバリオン |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、高エネルギー重イオン衝突でできるクォークグルーオンプラズマの中に、ダイクォーク構造が存在するかどうかを調べることである。具体的には、高エネルギー重イオン衝突からのチャームバリオンの生成量を測定することでその存在にアプローチする。私は、この目的に向けて、LHC-ALICE実験において、二つのことを軸にこの一年研究を遂行した。 一つ目は、2013年までに取られた、ラン1の陽子陽子衝突データ解析である。高エネルギー重イオン衝突から、クォークグルーオンプラズマの成分を抜き出すためには、陽子陽子衝突や陽子鉛衝突といった基準測定からの差異を見る必要がある。しかし、これらの基準測定すらLHCエネルギーでは、ほとんど無いのが現状である。よって、私は、この一年陽子陽子衝突でラムダチャームやグザイチャームといったチャームバリオンの測定を行った。現在は、この陽子陽子衝突データ解析をまとめ、論文にまとめるべく解析を進めている。 二つ目は、2015年からはじまったLHC ラン2のデータ取得である。私は、ALICEでタイムプロジェクションチャンバーの運用を行い、データ取得の際のタイムプロジェクションチャンバーのトラブル等に対処した。タイムプロジェクションチャンバーは、飛跡検出や粒子同定を行うALICEで最も重要な検出器の一つであり、また本研究に不可欠である。2015年の冬に行われた鉛鉛衝突では、大体20ub-1の積分ルミノシティーを集めることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
私は、LHC-ALICE実験において二つのことを軸にこの一年研究を行った。 一つ目は、ラン1の陽子陽子衝突データ解析である。高エネルギー重イオン衝突から、クォークグルーオンプラズマの成分を抜き出すには、陽子陽子衝突などの基準測定との比較が必要である。しかし、LHCエネルギーでは、陽子陽子衝突ですらチャームバリオンはあまり測られていない。当初は、ラムダチャームの陽子+K中間子+パイ中間子や陽子+中性K中間子といったハドロン崩壊のみに注目して研究を行っていた。しかし、本年度途中でラムダチャームの電子+ラムダ粒子+ニュートリノやグザイチャームの電子+グザイ粒子+ニュートリノといったセミレプトニック崩壊の有用性に気づいたのは非常に大きい。というのは、電子を崩壊モードに持つことによって、無相関バックグラウンドの量が抑えられるからである。これによって他の崩壊モードより測定誤差を小さくできると期待される。さらには、中性グザイチャームも新たに研究できるようになった。現在は、セミレプトニック崩壊とハドロン崩壊の結果のコンシステンシーなどを調べながら研究を進めている。 二つ目は、昨年からはじまったラン2のデータ取得である。私は、ALICEでタイムプロジェクションチャンバーの運用を行うことで、データ取得に携わっている。タイムプロジェクションチャンバーは、飛跡検出や粒子同定を行うALICEで最も重要な検出器の一つであり、また本研究に不可欠である。2015年の11月から12月にかけて行われた鉛鉛衝突では、大体20 ub-1の積分ルミノシティーを集めることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度も引き続きLHC-ALICE実験において研究を行う。行うべきことは3つである。 一つ目は、陽子陽子衝突のデータ解析を完了し、投稿論文にまとめることである。現在は、様々な崩壊モードの比較などを行っているが、そこで一致した結果が得られ次第、執筆に向けた準備を始める。LHCエネルギー中心ラピデティー領域での初のラムダチャームやグザイチャーム測定であることから、陽子陽子衝突のチャームバリオン生成に新たな知見を与える重要な結果となると考えている。 二つ目は、昨年度取得したラン2のデータの解析である。陽子陽子衝突を論文にまとめた後に開始する。陽子陽子衝突に比べて、そのシグナルバックグラウンド比の悪さから、解析は難しいと予想される。そこで、新たにはじめたセミレプトニック崩壊の解析が活きるのではないかと期待する。セミレプトニック崩壊は終状態に電子を持つことから無相関バックグラウンドの量を抑えられる。また、粒子多重度の低い非中心衝突からもダイクォークに迫れないかなど工夫しながら解析を行う。 三つ目は、昨年度から引き続き、ALICEの基幹検出器であるタイムプロジェクションチャンバーを運用し、データ取得を行うことである。冬のシャットダウンの間に、読み出しの速度を数倍にするアップグレードが行われた。統計が必要な本研究にとって、本質的に重要なアップグレードである。しかし、一方で、新しいことからトラブルも予想され、昨年度より時間を費やすことになると想定される。
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