本研究は、高エネルギー重イオン衝突でできる高温環境でのダイクォーク構造の探索を目的としている。実験的には、チャームラムダやチャームグザイといったチャームバリオンの収量を、陽子陽子衝突、陽子鉛衝突、鉛鉛衝突で系統的に測定し、その差異を調べる。実験中のタイムプロジェクションチェンバー検出器の運用およびチャームバリオンの解析という二つの柱で研究を本年度も遂行した。 まず、タイムプロジェクションチェンバーの運用に関しては、実験中の読み出し系のトラブルに対処した。その結果、2016年には、陽子鉛衝突のデータを、Run-1の6,7倍程度集めたことをはじめ多くの新しいデータを取得した。 チャームバリオンの解析は、陽子陽子衝突、鉛鉛衝突の解析を行った。LHCエネルギーでチャームバリオンは、陽子陽子衝突ですらあまり測定されていない。そのため陽子陽子衝突解析は、鉛鉛衝突の結果を解釈する基礎データとして不可欠である。陽子陽子衝突解析では、特にセミレプトニック崩壊の解析に注力して解析を行い、最終的に得られる結果がほかの崩壊モードを用いた解析と無矛盾であることを確認した。その後理論モデルとの比較を行い、チャームラムダやチャームグザイの生成が、現存するほとんどのモデルで記述できないことがわかった。以上の結果をまとめる投稿論文を現在執筆中である。 鉛鉛衝突解析では、ハドロン崩壊を主として解析している。2015年に取得した鉛鉛衝突のデータを用いて、チャームラムダのシグナルを不変質量分布で確認し、解析が実行可能であることを示した。
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