研究課題/領域番号 |
15K17635
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹本 康浩 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任研究員 (40732186)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 素粒子実験 / DAQ |
研究実績の概要 |
近傍超新星が発生する際,膨大な数の超新星ニュートリノ(SN)の到来が予測され,発生数やエネルギーの時間発展情報は,超新星発生時の恒星内部の物理事象の解明の大きなヒントになるため,SNの観測が期待される.KamLAND検出器はSN全般に感度を持ち,特に低エネルギーにおける物理では統計量において他を圧倒する.一方で,KamLAND検出器は液体シンチレータで構成されるため,SNの事象が発生する場合は,事象を検出する光電子増倍管のすべてに光子が到達することが予想される.適切な事象選択なしにはそのようなすべての光子を取得することは電子回路の性能上不可能になることも予測される.したがって,そのような事象選択を事象取得の前に行うトリガロジックの開発研究が重要である. 平成27年度の研究においては,まず,空間においては事象の選択が十分にできることを評価した.ここではKamLANDのSN様の比較的エネルギーが高く,かつ空間に一様に分布することがわかっている,12B事象を用い,その事象から得られる光子の到達時間分布に関して研究を行った.ここで,検出器中心での事象は検出器外郭の事象に比して,光子の到達時間のばらつきが小さい.研究の結果,現在のKamLANDの電子回路に用いているCLK, 20ns幅を用いた場合,検出器中心での到達時間のばらつきが20ns幅でぼかされ,到達時間分布において元々あった外郭事象の分布との形状差が小さくなり,選択効率が低下することが分かった.一方,CLKを4ns 以下に設定すると,選択効率を比較的高く維持できることが分かった.したがって,さらなる物理事象解析を行いながら,新たに4nsのCLKをデータ収集電子回路の研究開発も行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述のように,KamLANDの実際のデータを用いて,事象の空間分布と,事象に由来する光子の到達時間分布について研究を行い,到達時間分布形状による事象の空間選択が可能であることを示した.また,現在使用している信号収集電子回路において,使用するCLK幅が到達時間分布形状をぼかしており,空間選択効率が低下することを発見し,大幅な効率上昇のためには新たな高速CLKを用いた電子回路の研究開発が必要であることを見出した.すでに,既存のKamLANDの電子回路の開発を共同で行った企業や他の知見を持つ企業とともに,高速CLKを用いた電子回路のデザイン仕様を検討し,全体的なデザイン仕様を決定した.特に重要な,高速CLKにおいて,必要な200MHz以上のCLKを得ることが現在の技術において十分確立していることを確認し,信号到達時間分布を判定回路に導く合理的なデザインを得ることに成功している. このような状況において,当初予定していたKamLAND MoGURAトリガ電子回路の購入および,MoGURA2テスト電子回路の購入を翌年度にスライドしたが,これらは研究の結果として必要性に応じたためで,全般として,研究は順調に進展していると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究によって,既存信号取得電子回路のCLKが事象空間選択を可能とするものの,生の観測時間データを用いた空間選択ほどは高い効率をもたらさないことが判明した.したがって,この効率を上げるための新電子回路の開発に着手している. 平成28年度の研究においては,大きく課題が2個に分けられる.一方は,すぐにでも発生することも予測される近傍超新星の事象を効率よくかつとり逃さず取得するための事象判定を既存トリガ回路において達成することである.ここでは,超新星ニュートリノの数,エネルギーの時間発展モデルに対応した最適な空間選択と時間選択トリガ機構を決定しトリガロジックを開発,実装,テストする.一方はより高速CLKを使用した高効率空間選択機構を実装可能な新電子回路開発である.すでに全般的な仕様に関しては決定しているので,その仕様に上記トリガ機構を最適化し,かつその環境下で実行できるトリガロジックの開発を行う.最終的な実装やテストは基板の製作開発,評価の後になり,通常の基板制作期間からは実装,テストは現実的ではないため計画には組み込まない.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の研究において当初購入しようとしていた,既存トリガ電子回路と同様のMoGURAトリガ基板では,事象の空間選択効率が当初予測程度まで上げられないことが実データを用いた研究により判明した.当初MoGURAトリガ基板の軽微な修正によりこの問題を解決できるか調査するために,MoGURAトリガ基板の購入を平成28年度に延期した.その後の研究において,高い空間選択効率を得るには高速CLKを利用した電子回路が必要であることが判明し,通常このような基板の開発研究から利用までには1~2年要するため,本研究の目的である迅速な超新星ニュートリノ観測に適さない.したがって,この基板を購入することはなく,当初予定通りMoGURAトリガ基板を購入することとした.
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次年度使用額の使用計画 |
前述のとおり,迅速な近傍超新星ニュートリノの安定的,効率的取得を目標とし,これを可能とするトリガロジックを搭載するプラットフォームとして,平成27年度に購入予定であったMoGURAトリガ基板を,平成28年度に購入する.
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