研究課題/領域番号 |
15K17646
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田代 寛之 名古屋大学, PhD登龍門推進室(理), 特任講師 (40437190)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 宇宙大規模構造 / 原始磁場 / 再電離期 |
研究実績の概要 |
本年度は、宇宙論的21cm線による大規模フィラメント構造中のガスの物理状態の解明に関する研究をおこなった。具体的には、数値シミュレーションの結果を用いて、21cm線シグナルの大きさと、ガス温度や電離度の関係性を調べた。その結果、21cm線による観測は、ミッシングバリオン問題という、バリオンが宇宙にどのような状態で存在するかとうい問題にたいして、大きなヒントを与える得ることを示した。 また、21cm線を用いた銀河探査による宇宙論的スケールでの重力理論の変更の検証の可能性についても報告をおこなった。将来の21cm線観測計画はこれまでにない探査領域の大きさを誇る。そのため、既存の観測よりもさらに詳細に重力理論の変更の検証を行えることを示した。 このほかにも再電離期の21cm線シングなる源のひとつであるミニハローに注目し、宇宙の構造形成の初期条件である原始ゆらぎの統計的性質に迫る研究も行った。原始ゆらぎは宇宙背景放射や銀河探査によりその統計的性質は明らかにされつつあるが、ミニハローの存在量はこれら既存の観測では検証不可能な小スケールのゆらぎの情報を与えることを示した。 また、宇宙背景放射や高赤方偏移のライマンアルファの観測により、宇宙再電離期での活動銀河核の存在量にどこまで迫れるかの理論的研究も行った。 またこのほかにも、宇宙の構造形成史に多大な影響を及ぼす可能性がある宇宙論的磁場についての制限の研究を主に取り組んだ。その際注目したのが、磁場がビッグバンにもたらす影響と構造形成史に及ぼす影響の二つである。これらの影響を考慮することにより、宇宙初期と後期二つの時代についての磁場の制限を独立に導きだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の主眼のひとつである、中性水素21cm線の様々な宇宙論的問題への応用の研究を主に進めた。それらの中には、ミッシングバリオン問題、現在の宇宙加速度問題、そして、初期密度ゆらぎの検証などが含まれており、そのトピックは非常に多岐にわたる。これらの研究は、特に宇宙再電離期や現在の大規模構造の構造史解明につながる研究となっており、当初の計画の大半を今年度までに達成できたと評価できる。 すでに、これらの結果は4本の学術的論文としてまとめまれており、公表されている。 またこれらの研究の副次的な効果として、宇宙論的磁場についての制限の研究もおこなうことができた。この一連の磁場の研究もすでに3本の学術論文として公表済みである。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果の一つである、宇宙論的21cm線による大規模フィラメント構造中のガスの物理状態の検証の研究は、宇宙論的21cm線観測の構造形成探査への新たな応用の可能性を示している。現在、ほぼ全ての構造形成探査は、銀河の空間分布を探ることが基本となっている。そこで、21cm線により構造形成探査が可能となれば、これは新しい独立な探査方法の確立となる。そこで、今後は21cm線による宇宙大規模構造探査の理論的研究を中心して、今後の研究を進めていく。
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