研究課題/領域番号 |
15K17654
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
下村 崇 宮崎大学, 教育学部, 准教授 (00447278)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 軽いゲージ粒子 / Belle実験 / ニュートリノ実験 |
研究実績の概要 |
IceCube実験によって報告された宇宙ニュートリノのフラックスが理論の予測値よりも少ない可能性がある事を受け、軽いゲージ粒子によるフラックスの減少を説明する模型を構築した。今年度はこの軽いゲージ粒子の検証可能性について、日本で進行中のBelle-II実験に着目し研究を行った。Belle-II実験は電子-陽電子衝突実験であり、エネルギーが低く、またこれまでで最大の統計量を貯める事が出来る。この実験で、IceCubeの結果を説明し得るゲージ粒子を発見する事が可能か、また発見できないとしてもどこまで質量と相互作用の強さを制限する事ができるかを理論的に明らかにした。解析では他のゲージ粒子との運動項混合がある場合とない場合で計算を行い、両方の場合で検証可能なパラメーター領域を明らかにした。さらにニュートリノ三重生成過程を用いた実験を想定し、これによってどこまでゲージ粒子の検証ができるかも調べた。これら二つの実験を組み合わせる事でさらに発見またはパラメーターの制限が可能となる事を明らかにした。これらの研究結果を論文として2本出版した。 また、Atomkiグループが行ったベリリウム原子核の崩壊による電子-陽電子対の観測結果が報告され、これによっても軽いゲージ粒子の存在が示唆された。これを受け、Atomkiグループの結果を説明しかつニュートリノの質量及び暗黒物質の残存量をも説明し得る模型を構築した。その模型ではAtomkiグループによる結果とニュートリノの質量を説明するためには、暗黒物質は10GeV程度の質量を持たねばいけない事、及び将来の暗黒物質探索実験で検証可能である事を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
IceCube実験の結果を受けて、軽いゲージ粒子が存在する可能性をニュートリノ三重生成過程及びBelle実験といった低エネルギー実験で検証できるかという問いに対しては、大枠で可能である事を明らかにできた。具体的な解析ではゲージ粒子の性質を二つに分けて行い、それぞれで可能なパラメーター領域を明示できた。これにより宮崎大学に着任した事によって遅れた分は取り戻せた。 また、新たにAtomki実験から示唆された軽いゲージ粒子に関しても、一つの具体的な模型を構築しそれによってニュートリノの質量と暗黒物質が同時に可能である事、及び将来実験で検証可能である事を明らかにした。これにより、より異なる相互作用を持つゲージ粒子に対して多方面からの検証という新たな方向性を見つける事が出来た。以上の事から、概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で(1) IceCube実験による観測結果を説明可能な軽いゲージ粒子を予言する模型の一つを提案し、そのゲージ粒子をBelle-II実験とニュートリノ実験で検証またはパラメーターを制限し得る事を明らかにした。また(2) Atomki実験の結果によって別の軽いゲージ粒子が示唆された事から、この実験結果を説明し得る模型の提案も行った。 今後の方針として(1)についてはBelle実験において別の反応でゲージ粒子の発見可能性を調べていく。その際、素粒子標準模型による背景事象が出来るだけ小さいものを選び、どの程度の相互作用の大きさまでならゲージ粒子を優位に観測できるか、または制限できるかを理論的に明らかにする。またニュートリノ実験に関しいては、生成されるミュー粒子の運動量分布を明らかにし、検証に必要なニュートリノビームのエネルギーと測定器のエネルギー分解能と角度分解のを明らかにする。その結果をもとにPINGUなどの現在計画中の実験でどこまで模型の検証ができるかを明らかにしていく。また研究の進展次第では、ニュートリノの質量の起源も考慮に入れた模型の構築を行っていく。 (2)に関しては、最近Atomkiグループによる追試の結果が報告され、やはり軽いゲージ粒子が示唆される事が明らかになった。この結果を受けて、すでに調べた模型の再解析を行い、より精度よく模型のパラメーターを決定する。また、別の暗黒物質の候補に対しても解析を行い、模型の可能性を見極める。
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次年度使用額が生じた理由 |
科研費で参加予定だった二つの研究会から招待され旅費滞在費を全て補助してもらったため。
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次年度使用額の使用計画 |
スウェーデンで行われる国際会議に参加し研究発表を行う。
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