原子核研究の基本となる核力には、二核子間力以外に三体力と呼ばれる多体相互作用が存在する。特に、核力の三体力のうちアイソスピンT=3/2成分の効果、特に三中性子間に働く三体力成分は、不安定核における新しい魔法数の出現や、中性子星の状態方程式を記述する上で必要不可欠であることがわかってきた。本研究の目的は、この新しい三体力の効果を実験的に明らかにすることである。 本研究の最終的な目的は、不安定核軽イオンビームを用いた荷電交換反応を用いて三中性子共鳴状態を探索し、三体力効果を検証することである。昨年度から進めていた重水素標的の開発を、今年度も引き続き行った。当初計画を策定した頃は、過去の実験や理論予想から、三中性子共鳴状態は励起エネルギー約10MeV近辺に存在する可能性があると示唆されており、そのエネルギー領域に照準を合わせた測定を計画していた。しかし最近、テトラ中性子共鳴状態存在を示唆する実験結果が発表され、それに伴い理論研究が活発化し、三中性子共鳴状態に関する新たな理論予想が発表された。その中には、数MeV 程度の低エネルギー領域に三中性子共鳴状態を予測するものもあり、低エネルギー領域かつ高エネルギー分解能を持つ測定を行う必要が発生した。そこで、実験により生成した三中性子の同時測定を中性子検出器NEBULAを用いて行う際の実験シミュレーション、及び新たに導入する荷電粒子VETO検出器の効率に関するシミュレーションをGEANT4を用いて行った。また、本実験と相補的な役割を果たす、陽子ー重陽子分解反応の中間エネルギー領域おけるデータ解析を行い、現在までの三体力効果の詳細に関する知見をまとめた。 上記の研究結果を、国際会議FB22(仏)、日米合同物理学会(ハワイ)、国際会議CJNP2018(中国)において発表した。
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