最終年度は、昨年度末阪大核物理研究センターで行った炭素12、13、14の295 MeVでの偏極陽子弾性散乱実験の解析を行なった。炭素14の測定では同じ質量数の窒素14がバックグラウンドとなる。窒素14は放射能が外部に漏洩しないように設けられている標的窓に含まれている。バックグラウンドの引き算を行なった結果、窒素14とほぼ同程度の収量が得られていることがわかった。実験中に被曝や汚染といった問題がなかったことと合わせて、不安定核を標的とした順運動学での偏極陽子弾性散乱測定の手法をほぼ確立できたと言える。炭素12と炭素13標的については、これまで我々が有していた分布よりもさらに後方角度での微分断面積と偏極分解能を得ることができた。これにより、炭素同位体の密度分布抽出に必要な有効相互作用の較正の精度を上げることが可能となった。 今回用いた炭素14標的には炭素の安定同位体が自然存在比で混じっていることがわかった。この炭素14に混ぜられている自然存在比の炭素の割合を減らすとともに窒素14を含まない物質を標的窓として用いることができれば、測定データの誤差を小さくできる。次のステップに向けて解析結果をもとに上記の可能性を検討した。 本研究の成果は二つあり、一つは炭素14標的の開発、もう一つはこの標的を用いた順運動学での偏極陽子弾性散乱測定である。前者の炭素14標的は非密封RIとなるため安全な標的の作成、保管 、使用が求められる。昨年度までに各過程で生じる問題点を解決していき、作業中被曝する事なくまた周囲も汚染させる事なく作成を終える事ができた。この成果を物理学会秋季大会で報告した。後者については、上記の結果ならびに被曝や汚染もなく実験を終えることができたことを物理学会第73回年次大会で報告した。
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