研究課題
本研究では、核子レベルの微視的観点から原子核構造を記述し、その核構造情報を用いて原子核反応模型に適用する。この原子核の統一的記述を目的とした模型を微視的核構造反応模型と呼び、この模型を用いて、比較的軽い原子核の系統的な分析を行った。今年度は、まず、6Li, 7Be, 8Bの原子核を、それぞれα+p+n, α+p+p+n, α+p+p+p+nクラスター模型に基づいて核構造計算を行った。その結果、8B原子核の自由度が7Beに比べて大きかったため、基底状態の束縛エネルギーが7Be原子核よりも小さくなってしまった。また、8B原子核は特殊な構造である陽子ハロー構造を持つと知られいる。このため、解決方法を講じている最中である。さらに、10Beの原子核構造計算を行った。10Be原子核は、過去の研究成果となる9Li原子核(α+t+n+n)と似た配位を持つクラスター構造となる、α+α+n+nクラスター構造によってよく記述することができると知られている。10Be原子核において、先のエネルギー順位の問題は特になかったが、基底状態の原子核半径と励起状態への遷移強度の大きさを同時に再現することができなかった。そのため、パラメータサーチを行い、原子核半径と遷移強度を同時に再現するパラメータを探した。また、実験グループと共同で行った12C+12C散乱データの解析も行った。12C原子核構造については、まずは既存のものを利用した。今後さらなる分析のため、12C原子核構造の記述を行う予定である。
3: やや遅れている
6Li, 7Be, 8B原子核の記述において、基底状態のエネルギーを適切に求める必要が生じた。特に8B原子核は陽子ハロー構造を持つと知られているため、その記述は難しく、適切で計算効率の良い解決策を講じる必要性が生じた。また、原子核散乱反応において最も重要と考えられる原子核構造情報は、基底状態の半径と励起状態への遷移強度であることが知られている。しかし、10Be原子核構造計算に用いられる従来のパラメータでは、原子核半径と遷移強度を同時に再現することが困難であり、改めてパラメータサーチをしなければならなかった。従来の核構造計算では、このパラメータサーチは行われないことが多いが、本研究では、原子核反応模型を通じて実験可能な断面積との比較を行うため、このパラメータサーチが必要であると判断した。そのため、パラメータサーチに時間がかかってしまい、やや遅れていると判断した。
今年度におけるパラメータサーチによって、原子核構造計算から得られるエネルギー順位や原子核半径、また、遷移強度の変化の傾向をつかむことができた。この経験より今後の原子核構造計算に役立てる。まず最初に、10Be原子核と9Li原子核の比較を行う。このふたつの原子核は、よく似たクラスター構造を持ち、α+α+n+nとα+t+n+nクラスター模型を用いることによって、良く記述することができる。これによって、核構造の観点からは度々議論がされた。しかし、このふたつの原子核を用いて核反応模型に適用し、比較検討を行った例はほとんどない。そのため、本研究における微視的核構造反応模型を用いて、このふたつの原子核の比較を行い、類似性と相違性について分析を行う。特に、核構造の観点からだけでは見つけられなかった相違性について、核反応の観点から詳しく分析を行う。また、本年度に行う予定であった、6Li,7Be,8B原子核の記述方法について解決策を講じる。そして、核反応の観点から余剰核子の影響について分析を進める。
参加予定であった国内国際会議の期間に避けられない校務が入ったため。
イタリアのナポリで行われるCluster国際会議に参加し、本研究成果を発表する。また、国内で行われる物理学会にも参加し、発表を行う。
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Physics Letters B
巻: 751 ページ: 1-6
10.1016/j.physletb.2015.10.008