研究課題
本研究では、微小粒子である原子核をその原子核を構成する核子からの微視的観点に基づいて構築を行う。さらに、その原子核を他の原子核と衝突させ、原子核構造から原子核反応まで一貫した模型によって、原子核のより詳細な分析を進めることを目的としている。平成28年度は、9Li 原子核の特性を調べるため、10Be 原子核との比較を行った。さらに、リチウム原子核同位体である 6Li, 7Li, 8Li, 9Li の系統的な分析を進めた。その結果、リチウム同位体の基底状態における多極性の原子核反応への寄与、励起状態におけるクラスター構造の発達などが明らかになった。また、実験グループと共同で進めた 12C + 12C 弾性・非弾性散乱の詳細な分析も行った。12C 原子核の励起の効果が弾性・非弾性散乱へ与えるチャネル結合効果を明らかにし、原子核構造と原子核反応の密接なかかわり合いを明らかにした。本研究の成果は、次のように海外で発表された。まず、イタリアのナポリで行われた国際会議 The 11th International Conference on Clustering Aspects of Nuclear Structure and Dynamics (Cluster'16) で成果発表を行った。次に、イタリアのトレントにある ECT star 研究所で行われた国際研究集会 Towards consistent approaches for nuclear structure and reactions に招待され、成果発表を行った。さらに、オーストラリアのアデレードで行われた国際会議 International Nuclear Physics Conference (INPC2016) でも成果発表を行った。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、原子核構造から原子核反応まで一貫した模型を用いて分析を行うことが強みであり、さらに系統的な分析によって原子核の多様性を明らかにすることができる。平成28年度は、リチウム同位体に着目し、自然界には存在しない原子核(不安定核)まで考慮した多様性について分析を進めることができた。それらの原子核について、基底状態から励起状態まで幅広い領域の特性を明らかにし、さらに、それを実験観測可能な散乱断面積で予言することができた。また、今年度に実施した系統的な分析により、リチウム同位体だけではなく、他の同位体や同重体、また、同中性子体の系統的分析を進めることが容易に可能となった。一方で、理論的な予言だけではなく、直接実験データと比較するためには、実験グループとの協力が必要不可欠である。そこで、12C 原子核に着目し、12C + 12C 弾性・非弾性散乱実験の分析を進めた。重イオン散乱反応において、核子間相互作用に起因する効果と原子核の構造が起因する効果が複雑に内在していた。そこで、本研究において、その相互作用による寄与と原子核構造による寄与を分類し、それぞれの寄与の重要性を明らかにした。
今後は、リチウム同位体の構造における詳細な分析を進め、それらの構造について、実験観測可能な物理量を用いて明らかにする。また、それらの成果を発表するために、論文の執筆を行う。また、同重体で、かつ、鏡映核となる 10Be, 10B, 10C の原子核構造や原子核反応に着目し、分析を進める。特に、これらの原子核は、実験データが豊富に存在するため、実験データの予言だけではなく、既存の実験データとの比較によって本研究で用いている模型のさらなる有用性を明らかにしていく。また、12C + 12C 弾性・非弾性散乱におけるエネルギー依存性に着目し、実験グループと共同で分析を進める。また、これまでは既存の 12C 原子核構造模型による情報を利用してきたが、様々な 12C 原子核構造模型による情報を用いて比較検討を進める。
参加する予定であった研究集会と校務が重なったため。
北海道大学で国際研究集会 Workshop on Nuclear Cluster Physics (WNCP2017) を開催する予定のため、その旅費などに充てる。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件、 査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
Proceedings of Science
巻: (INPC2016) ページ: 224
Physical Review C
巻: 95 ページ: 04416
10.1103/PhysRevC.95.044616