研究課題/領域番号 |
15K17667
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
土井 琢身 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器研究センター, 専任研究員 (70622554)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 三体力 / 核力 / バリオン間力 / 格子QCD |
研究実績の概要 |
バリオン間の相互作用をQCDに直接基づき決定することは、現代の原子核物理における積年の重要課題である。特に三体力は、少数系原子核での役割に加え、中性子星の構造や、超新星爆発、連星中性子星合体現象など、高密度系での役割に注目が集まっている一方、不定性が大きいため、その第一原理的な決定は大きなインパクトを与える。本研究の特徴は、HAL QCD 法を用いることで、三体力を格子QCDにより決定することにある。本年度の成果として、主に次のものが挙げられる。 1. 昨年度に引き続き、パイオン質量 0.5 GeV という、これまでにない軽い質量領域で三核子力を計算した。本課題で開発した、京コンピュータ向けに最適化されたコード(カーネル部分で約50%の実効効率)を用い、約2倍の統計数を達成した。これにより、短距離三体斥力効果があることを見出した。また、よりクォーク質量が重い領域の結果と比べ、斥力のレンジが長くなる傾向が得られた。 2. 格子QCDにおける二体相互作用の計算については、直接法、HAL QCD法という、二つの異なる手法間で結果が食い違うという問題があった。今年度は、直接法で得られた結果の信頼性を検証する手法 (sanity check) を新たに確立した。この手法を適応することにより、従来直接法で得られた二核子間相互作用の結果は、全て信頼性に問題があることを明らかにした。 3. 物理点クォーク質量におけるバリオン間力計算を主導した。核力からハイペロン力まで系統的に計算を行った。統計数を増大させることで、特にストレンジネス|S|が大きいチャネルについて、系統誤差をコントロールした結果を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
パイオン質量 0.5GeV における三核子力計算を行い、昨年度と比べて約2倍の統計数を達成した。これは、ほぼ年度当初の目標通りである。これにより、短距離領域において三体斥力成分があり、また、よりクォーク質量が重い領域での結果と比べ斥力レンジが長くなる傾向を見出した。これは、三体力のクォーク質量依存性を初めて確認した成果である。一方で、超短距離領域の振る舞いは、離散化誤差の影響との関係の研究が今後必要であることが明らかとなった。直接法・HAL QCD 法の比較に関連して、直接法で得られた結果の信頼性を検証する新たな手法(sanity check) の開発に成功したが、これは当初の計画には無かった成果である。この手法により、従来の直接法の結果は全て信頼性に問題があることが明らかとなったが、これは、三体力を HAL QCD 法で計算することの重要性をも意味するものである。物理点クォーク質量におけるバリオン力計算は、おおむね年度当初の目標通りに進展した。
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今後の研究の推進方策 |
三体力を含む、バリオン間力計算の長期的戦略として、これまで計算してきたパイオン質量 0.5 GeV よりも軽い領域での計算を進めていく予定である。そのために、京コンピュータを用いて、パイオン質量 0.25 GeV 近辺での大規模な配位生成を行う予定である。そのための計算資源を HPCI 一般課題として提案・採択されており、既に計算が進行中である。また、現在の二体力・三体力計算は、非弾性散乱状態の混合が最も大きな系統誤差をもたらしている。現在、この問題を解決する新たな手法を HAL QCD Collaboration で開発中であり、最初のターゲットとしてメソンメソン系での研究を進めている。この手法を三体系に適用することは、非常に non-trivial であるため、その実現に向けた研究開発は今後の重要な課題であると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度自体の使用はおおよそ予定通りであったが、昨年度の繰り越し分が次年度使用額となっている計算である。
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次年度使用額の使用計画 |
海外開催の国際会議への参加、コンピュータ関連物品の購入を行う予定である。
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