研究課題/領域番号 |
15K17676
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 壮智 東京大学, 物性研究所, 助教 (50636503)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | グラフェン / 水素 / スピン軌道相互作用 / スピン注入 |
研究実績の概要 |
グラフェンを水素で修飾することによってスピン軌道相互作用が増大することを明らかにするため、水素修飾グラフェンを用いてスピントロニクスデバイスを作成し、スピン軌道相互作用に起因したピンホール・逆スピンホール効果によるスピン流・電流変換現象の観測、およびスピン軌道相互作用によるShubnikov-de Haas振動の変調の観測を目指した。 スピントロニクスデバイスは機械剥離グラフェンおよびCVDグラフェンを用いて作成し、グラフェンの水素修飾にはHSQを用いた。その結果、水素修飾グラフェンに強磁性体を用いて純スピン流を注入すると、それに直交する方向に起電力が生じており、さらに面内磁場を印加することで、その起電力がスピン歳差運動を反映した振動を示すことを発見した。このような起電力は水素修飾をしていないグラフェンを用いた素子では観測されなかったことから、水素修飾によってスピン軌道相互作用が増大し、逆スピンホール効果が生じた証拠であると考えることができる。 一方、グラフェンへの水素修飾の量を変えることでスピン軌道相互作用の強度を変えることができるかどうかを調べたが、水素修飾量を増やすことでグラフェンの伝導度が急激に減少し、逆スピンホール効果は観測出来なかった。また水素修飾グラフェンではどのような水素修飾量においてもShubnikov-de Haas振動は観測できなかった。これはHSQを用いた水素修飾ではSiO2が表面に残留し、それがグラフェンの電子状態を変えたためではないかと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
スピントロニクスデバイスを用いて逆スピンホール効果を観測し、スピン軌道相互作用が増大している証拠を得ることができた。一方で、水素修飾プロセスにおけるグラフェンの損傷が大きいため素子の歩留まりが極めて悪く、スピンホール角を含めた様々な物理量を算出する所までは至っていない。またHSQの塗布と残留するSiO2によるグラフェンの性能の劣化が大きくデバイス作成の障害となっている。
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今後の研究の推進方策 |
HSQによる水素修飾では残留するSiO2がグラフェンの性能の劣化の大きな要因であると考えられる。そのため、SiO2の影響を避ける方法としてHSQ濃度の調整し、さらに超薄膜によるグラフェンの表面保護や、化学薬品による残留物の除去することでグラフェンの性能を維持できるかを調べる。またHSQ以外の方法で水素修飾することでもスピン軌道相互作用が得られないかを調べ、十分なスピンコヒーレンス長を持つ水素修飾グラフェンを実現しスピン干渉素子を実現する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品の納期が遅れたため
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次年度使用額の使用計画 |
納期の遅れた物品は4月購入予定
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