申請者は,CRESTプロジェクト(代表:東京工業大学,腰原教授,2010~2015)に参加し,半導体表面に光励起した電子のダイナミクスが100 nmと100 fsの高い時間・空間分解能を両立して観察できる時間分解光電子顕微鏡(time-resolved photoemission electron microscopy: TR-PEEM)を開発している.本申請課題は,TR-PEEMの光源改良によりエネルギー分解能を追加し,励起電子の緩和過程を時間・空間・エネルギー分解計測することが目的であった. CRESTプロジェクトで装備したフェムト秒パルスレーザーのエネルギーは,0.5から2.4 eVの間で可変であったが,本研究課題により高エネルギー側を6 eVまで拡張することに成功した.得られたエネルギー分解能は40 meVであった.本研究の当初の目的は,半導体禁制帯中に存在する欠陥準位を介したキャリアダイナミクス観察であったが,装置改良・研究遂行していく過程で,思いがけなかった成果が得られた.第一に,材料のイオン化エネルギー・仕事関数が高い空間・エネルギー分解能(100 nmと40 meV)で容易にマッピングできたことである.第二に,UVレーザーパルスのエネルギーをイオン化エネルギー程度に調整できるようになったことで,重要な課題であった,光電子放出が引き起こす電子欠乏による試料帯電を大幅に抑制できたことである.これにより,測定時間の大幅な短縮,各種分解能の向上につながり,将来的に新規半導体評価装置となる可能性があるため,特許出願した. UV領域でエネルギー可変になったことで, SiやGaAsなどの典型的な半導体材料だけでなく,今後の発展が期待されるワイドギャップ半導体(SiCやGaN)のキャリアダイナミクス観察が可能となり,複数の半導体メーカと共同研究が始まり研究が大きく進展した.
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