理想的な二次元ナノ物質である遷移金属ダイカルコゲナイド半導体MX2単層膜は、光物性・電気物性・スピン物性が絡まり合い、バレートロニクスに代表される新物性発現の舞台として近年多方面から注目されている物質群である。しかしながら、空間閉じ込め効果に起因する強い多体キャリア間相互作用のため、励起子分子や荷電励起子の関与した光励起状態は極めて複雑になり、その光物性の全貌は未解明である。本研究では、MX2単層膜におけるユニークな光学特性の起源となる励起状態ダイナミクスを、異なる時間分解レーザー分光手法を組み合わせることで解明することを目指した。特に、電気伝導とレーザー分光の融合させた新しい分光法を用い、光・電気伝導・スピンの相関に基づく物性の解明を進めた。 今年度はまず、高品質な単層MoS2の作製を目指して、TFSI薬品処理による発光高効率化および金剥離法による大面積試料の作製を行った。前者の成果として、発光効率が従来の数百倍に改善させることに成功した。また、従来は数ミクロン程度の大きさの単層膜しか作製できなかったところ、金剥離法により100ミクロン程度の大面積単層膜試料の作製に成功した。これらにより、試料に電極を付けて電流及び光学特性の測定を同時に行うが容易になった。また、どの基板上にMoS2を作製するかによって単層MoS2の光学特性に違いが現れることを見出した。励起子発光のピークエネルギーは基板の誘電率が高くなるほど低エネルギー側にシフトした。これを誘電遮蔽効果によって議論した。
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