研究課題
グラフェン量子デバイスの作成を目指して、今年度はグラフェン量子ドットの作成とその評価を行った。従来の手法ではグラフェン量子ドットを作成するのが難しいため、電流過熱によって作成することを行った。あらかじめ、グラフェンを300nm程度の幅にエッチングし、大気下で大きな電流を流すことで加熱し、グラフェンを酸化させることで微細化した。この手法により、室温で1キロオーム程度だった抵抗を10キロオームから数100キロオームまで増加させた。希釈冷凍機を用いて、20mK程度で測定を行ったところ、グラフェンドット中の状態が離散化していることを示すクーロン振動とクーロンダイアモンドを観測した。クーロンダイアモンドから量子ドットの帯電エネルギーを見積もったところ1.5から3meV程度であった。この手法により、より簡単にグラフェン量子ドットを作成することが可能になった。将来的には、室温での抵抗を制御することによって、グラフェン量子ドットの大きさを制御し、帯電エネルギーを制御することも可能になると考えられる。また、グラフェン量子ドットのクーロンブロッケード領域において、本来では電流が流れにくいはずであるが、ゼロバイアスのコンダクタンスピークを観測した。そのゼロバイアスピークを磁場依存性を調べたところ、磁場を印加するにつれて弱くなっていく様子が観測されたことから近藤効果によるものと考えられる。観測されたゼロバイアスピークの幅の大きさからや、量子ドットの帯電エネルギーとトンネル結合の強さから近藤効果のパラメーターである近藤温度を見積もったところ、それぞれ4.85K、3.2Kという量子ドット系では大きな値であった。近藤効果が観測されたことは作成したグラフェンドットが量子ドットとして動作していることを示している。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画では将来的なグラフェンを用いたスピントランジスタデバイスの開発を考えて、今年度はグラフェン量子デバイスの研究に取り組んできた。しかしながら、最近の有機分子の合成技術とそのグラフェン上への修飾技術の発展により、グラフェン表面に分子を修飾した新しいデバイスの研究が盛んになってきている。そこで、今年度得たグラフェン量子デバイスの知見を活かして、今後はグラフェン表面に分子を修飾した新規デバイスの研究に取り組みたいと考えている。具体的にはグラフェン量子ドットにソースドレイン電極として超伝導電極を接合し、磁性分子をグラフェン表面に修飾することにより、量子ドット、超伝導、磁性が共存する特殊な系を実現し、その系における新規物理現象を観測し、詳細に調べて行きたいと考えている。
今後は量子ドット、超伝導、磁性が共存する系の作成を目指して、まずはグラフェン量子ドットジョセフソン接合の作成を行う。超伝導体としては高温超伝導体を使用する予定である。最近、高温超伝導体としてMoReを用いた研究が行われていることから、MoReの使用を考えている。まずはMoReグラフェン量子ドット接合を作成し、超伝導電流やアンドレーエフ束縛状態の観測等を行う。磁性分子に関しては、そのような技術を有している他研究機関と共同研究する必要があるが、大阪大学の小川研究室がすでにそのような分子を行っているため、今後、共同研究を考えている。グラフェン上への磁性分子の修飾を確認した後、MoReグラフェン量子ドット接合に修飾し、極低温での電気伝導特性を評価する予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (29件) (うち国際学会 9件、 招待講演 1件)
Applied Physics Express
巻: 9 ページ: 045104-1 4
0.7567/APEX.9.045104
Japanese Journal of Applied Physics
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10.7567/JJAP.54.06FF05
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