研究課題
今年度は、グラフェンの合成からグラフェン量子ドットと超伝導デバイスの作製に取り組んだ。グラフェンは基盤全体に容易に合成できる化学気相成長法により合成した。化学気相成長法はグラフェンの産業応用において最も有力な合成手法であり、従来の機械的剥離法と比較して、容易に大量の試料を作製することが可能となった。化学気相成長法で合成したグラフェンを単一のドット構造に微細加工し、希釈冷凍機を用いて、20 mK程度で測定を行ったところ、帯電エネルギーが約4 meVのダイアモンドと1 meVの2種類のクーロンダイアモンドが観測された。この結果は大きさが異なる2種類以上の量子ドットが形成された、すなわち、作製した試料が多重量子ドット化したことを示している。単一ドットの構造で多重量子ドット化したことから、ドットのところだけでなく、くびれの構造において電子が閉じ込められ帯電エネルギーが大きい量子ドットが形成されたと考えられる。以上からくびれの構造を作製するだけで量子ドット化するという知見を得た。超伝導に関しては超伝導臨界温度が高いモリブデンレニウムを用いて試料作製に取り組んだ。モリブデンレニウムの細線を作製したところ、4.2K以下で超伝導になることを確認した。モリブデンレニウムグラフェン量子ドット接合を作製したところ、グラフェンがクーロンダイアモンド等の量子ドットとして動作することを確認した。トンネル結合が弱いことや多重量子ドット化したため、モリブデンレニウムグラフェン量子ドット接合において、超伝導の観測はできなかった。量子ドットのリードの金属として一般的なチタンや金と比較してモリブデンレニウムグラフェン量子ドットの結合を強化する必要があるという知見を得た。これらの研究ではアシュート大学のモクタール先生を招聘して取り組んだ。
2: おおむね順調に進展している
グラフェン量子ドットに関して新たな知見を得ると共に、モリブデンレニウムとグラフェン量子ドット接合を作製することに成功した。モリブデンレニウムは超伝導臨界温度が9K以上のかなり高い金属であり、実際に液体ヘリウムの温度である4.2K以下で作製したモリブデンレニウム細線が超伝導体になっていることは確認できた。残念ながらグラフェン量子ドットとモリブデンレニウムの結合が弱く、グラフェン量子ドットを超伝導電流が流れる様子は観測できなかったが、そのための課題ははっきりしている。また、グラフェン量子ドット表面に有機分子を修飾することにも取り組み、ピレン構造を持つ分子をグラフェンに修飾し、修飾量の評価なども行った。グラフェンを修飾することにより、バイオセンサ等へ応用することにも取り組んでいる。グラフェンを化学気相成長法により合成できるようになったため、グラフェン量子ドットを容易に大量に作ることができるようになった。
グラフェン量子ドットとモリブデンレニウムの接合を作成することはできたが、超伝導電流は観測できなかったため、トンネル結合を大きくする必要がある。まずは、グラフェンの幅を大きくしてモリブデンレニウムから超伝導電流がグラフェンに流れることを確認し、その後、大きな幅を維持してグラフェン量子ドットを作製し、グラフェン量子ドットに超伝導電流が流れる様子を観測する。超伝導電流を観測するためにグラフェンの幅をかなり大きくする必要がある場合には、モリブデンレニウムとグラフェンの間にチタン等の十分大きな結合が得られる金属を蒸着する等により、グラフェンとモリブデンレニウムとの結合を強くすることに取り組み、モリブデンレニウムからグラフェン量子ドットに超伝導電流を流す。モリブデンレニウムが難しい場合には、アルミニウム、ニオブなどの他の超伝導体を使用する。また、グラフェン量子ドットに強磁性体電極を接合する等、新しいデバイスの作製に取り組むことも考えている。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 7件)
Japanese Journal of Applied Physics
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巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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