研究課題/領域番号 |
15K17683
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研究機関 | 大阪歯科大学 |
研究代表者 |
松原 英一 大阪歯科大学, 歯学部, 講師 (10421992)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | テラヘルツ波 / プラズマ / パルス圧縮 / 波形整形 / コヒーレント分光 / フィードバック制御 |
研究実績の概要 |
本年度は、まず位相制御光学素子を使ったプラズマ発生用2波長パルスの偏光制御によるコヒーレント赤外波発生・検出帯域の向上を試みた。波長775nm用に設計された真のゼロ次波長板を位相制御光学素子として使用し、基本波と倍波の偏光が同じになるように調整を行った結果、超広帯域コヒーレント赤外パルスの発生効率を、ほぼ全周波数帯域で向上させることができた。また、その強度増加率は高周波ほど大きく、高周波成分の発生メカニズムに高次の非線形過程が関与していることがわかった。コヒーレント電場検出を行ったところ、モノサイクルの電場波形が観測され、そのフーリエ変換スペクトルにより200 THzを超えた周波数成分まで検出できていることがわかった。時間軸上における赤外パルスの正負のピークの時間差は6 fsであり、これは従来の半分程度である。このことは真のコヒーレント検出の広帯域化を裏付ける。 次に、コヒーレント赤外パルスの安定化を目的に、10fsパルス発生用の中空ファイバーに入射するビームポインティング揺らぎの制御を行った。そのために、赤外パルスを四分割のフォトダイオードで検出し、ピエゾつきのミラーホルダーによってフィードバック制御を行った。市販の四分割フォトダイオードを使ってビームポインティングの揺らぎを検出したところ、フォトダイオードの応答速度がレーザーパルスの繰り返し周期(1 ms)よりも速く、その信号をサンプリングするタイミングが制御できないため、そのままではフィードバック制御が行うことができなかった。そこで、ICを用いたサンプルホールド回路を作製し、検知した信号強度をピーク付近でホールドしたところ、ビームポインティングの揺らぎを正しく計測できるようになった。さらにPID制御のパラメータを適切に選ぶことによって、ある程度ビームポインティングの揺らぎを補正できることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究申請書で掲げた6つの技術要素項目のうち、位相制御素子によるコヒーレント赤外波の広帯域化、中空ファイバーへのビームポインティング制御による10fsパルスの安定化、小型ミラーによる反射分光の実現、の3つについて具体的な成果を得ることができた。それらの成果は、2015秋の応用物理学会におけるOSA-JAPSジョイントセッションにおいて口頭発表し、2016年6月開催の国際会議(CLEO)で口頭発表が予定されており、論文投稿も準備中である。2016年度は銅酸化物のコヒーレント分光を実現したい。
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今後の研究の推進方策 |
まず、10fsパルスを使ってプラズマ励起用の2波長パルスの偏光を制御した際の、コヒーレント赤外波強度増強のメカニズムを明らかにしたい。βBBO結晶および波長板を通った際、これらの光学素子による群速度分散の見積もりでは、2パルスは時間的に全く重ならなくなる。それにも関わらず、コヒーレント赤外波の強度が増強されたということは、プラズマを伝播する際、負の群速度分散の寄与があるものと推測できる。パルス圧縮に使われるフィラメンテーションでは、自己収束とプラズマの負の非線形屈折率によるビーム発散が競合して起こり、ある条件ではビームが集光を保ったまま長距離伝播することが知られているが、少なくともテラヘルツ発生の分野でプラズマによる負の群速度分散に言及されることはなかった。既に着手しているが、厚みの異なるβBBO結晶とαBBO結晶を使って、コヒーレント赤外波の発生効率を系統的に調べたいと考えている。 低温の測定に関しては、クライオスタットの窓に使っているシリコンの群速度分散によって、コヒーレント赤外波の時間波形が乱れてしまうという問題がある。これについては、10 fsパルスのチャープ補正に使用している負分散ミラーの反射回数を増やすことで打開できる可能性がある。以前、反射回数が2往復程多くしていた際には、コヒーレント赤外パルスのビームパスにクライオスタット用ののシリコンの窓を挿入することで波形がかえってよくなっていた。プラズマ励起用パルスのチャープと、コヒーレント赤外パルスのチャープの相関は自明ではないが、密接な関連がある可能性がある。このアイディアがうまくいけば、単に低温測定が可能になるのみならず、プラズマ励起用パルスのチャープによるコヒーレント赤外波の波形整形の可能性を示唆するもので、学術的にも重要な知見となり得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
光学素子・光学部品の劣化による更新に充てる経費が予想より小さかったこと、旅費が当初の見積もりより低く抑えられたことなどから、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究成果を発表する国際学会に出席するための海外出張費、論文掲載料等に充てる予定である。
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