本研究では、2色の超短光パルスを空気中に集光してプラズマを生成する際に、基本波用に設計された真のゼロ次波長板(第2高調波(SHG)パルスに対して全波長板)を使って2色パルスの偏光をそろえることにより、超広帯域コヒーレント赤外パルスの強度が数倍以上に向上することを見出した。しかし、使用する光パルスの時間幅が約10 fsと短く、スペクトルが広帯域であることから、結晶の分散による2色パルスの位相関係の乱れと群遅延差が発生効率を低下させる要因になると考えた。そこで、これらの効果が発生効率に及ぼす影響を定量的に理解する必要があると考えた。 これまで空気プラズマを使った広帯域のテラヘルツパルス発生に関して多くの報告例があるが、2色パルスの全波長成分の位相差と群遅延差を詳細に議論した例はなかった。そこで、本研究では上記の実験結果のメカニズムを解明し、さらに高効率な発生が可能な条件を探索するため、偏光制御用の波長板、SHGパルス発生用のβBBO結晶、群遅延補正用のαBBO結晶の厚みを系統的に変え、その依存性を調べた。その結果、SHGパルス発生用に厚さ100μmの薄いβBBO結晶を使用し、群遅延補正のためのαBBO結晶を使用しないときに最も高い発生効率が得られ、βBBO結晶の厚みを増やしていくとαBBO結晶による群遅延補正の効果はある程度見られるが、最適の条件を上回る結果は得られないことがわかった。これは、αBBO結晶の挿入による2パルスの位相関係の乱れ、反射による強度の減少、およびパルス幅の広がりが群遅延補正の効果を打ち消すことによるものだと考えた。 この実験結果を検証するためにプラズマ電流モデルを使ってシミュレーションを行った。その結果、群遅延補正の効果はあるものの、非線形結晶の厚みを増やしていくにしたがって位相差の乱れによって発生効率が減少する実験結果を再現することができた。
|