研究課題/領域番号 |
15K17684
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
酒巻 真粧子 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 助教 (90598880)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 表面・界面 / X線磁気円二色性 / 磁性薄膜 |
研究実績の概要 |
本研究では、電界中でサブnmの界面状態観察を可能とする、軟X線カメラを用いた蛍光収量型深さ分解X線磁気円二色性(XMCD)測定システムを開発することを第一の目的としている。このシステムを用いることで、埋もれた界面からの微弱なXMCDシグナルを、電界中あるいは磁場中で得ることができる。本研究では特に、強磁性・強誘電体接合に数原子層程度の界面酸化物を挿入し、特異な界面現象を積極的に利用することで、新しい電気磁気効果を実現することを最終的な目標にしている。そのためには、電界中で界面酸化物の電子・磁気状態を観察し、より大きな電界効果を実現する界面構造を提案する必要がある。これまでにシステムの設計および組み立てが完了し、テスト試料と界面酸化物を有する薄膜試料のX線吸収(XAS)スペクトル測定を行った。さらに試料周りに永久磁石を配置し、円偏光の切り替えを行うことで、磁場中で深さ分解XMCDスペクトルが得られるようになった。この手法を用いてFe/NiO/BaTiO3薄膜のNi及びFeのXMCDスペクトル観察を行ったところ、Fe/NiO界面にNiの強磁性成分が存在することがわかった。現在のところ、界面における酸素のやり取りによってNiOがNiに還元されたと考えており、この反応がどのように電界による磁性変化に関わっているかは調査中である。また今後はNiOの代わりにCr2O3など他の界面酸化物を用いることで、多様な電界効果が実現できるものと期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サブnmオーダーの深さ分解能を持つ蛍光X線検出システムを実現するため、約13μm四方のピクセルを有する軟X線CCDカメラを試料の約20mm下に配置し、出射角約30°の範囲においてシグナルを約0.1°刻みで取り込めるような装置を作製し、以下の結果が得られた。 作製した装置を軟X線ビームラインにつなげ、テスト試料であるSUS薄膜のFe L端XASスペクトルを測定した。カメラの画像データを解析したところ、検出深度の違いによってスペクトル形状に変化が見られ、表面付近で酸化物に由来する成分が見られた。これにより深さ分解スペクトルが得られたことが確認された。 さらに永久磁石を試料周りに配置することで、磁場中測定が可能なセットアップに改良し、界面にNiO層を有するFe薄膜のFeおよびNi L端XMCDスペクトル測定を行った。その結果、界面付近とNiO層内部でNiのXMCD強度が異なり、界面付近でNiの磁化が誘起される傾向が見られた。
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今後の研究の推進方策 |
電界を印加した状態で測定ができるように試料ホルダーの改良を行う。この手法を絶縁体/界面酸化物/強磁性体接合に適用することで、電界によって界面酸化物の電子状態や磁気モーメントがどのように変化し、どのように強磁性体内部の磁性を変化させているのかを明らかにする。 上記の知見をもとに、どのような界面酸化物が強磁性体内部の磁性を有効に制御できるかと検討し、最適な界面酸化物と強磁性体の組み合わせを選ぶ。
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次年度使用額が生じた理由 |
国内旅費を他の助成金で補ったことと、消耗品(薄膜材料や永久磁石)が想定より安い値段で手に入ったため、正の差額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
差額分は電界印加試料ホルダーの改良費にあてる。
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