研究課題/領域番号 |
15K17685
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
土屋 聡 北海道大学, 工学研究院, 助教 (80597633)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 有機超伝導体 / 擬ギャップ / 時間分解分光 / 超伝導ゆらぎ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は高温超伝導発現機構の解明を目指し、擬ギャップ(PG)の起源、超伝導(SC)との関連性を電子相関の観点から明らかにする。この目的に対して、本研究ではキャリア数を変化させずに電子相関を制御できる有機超伝導体を研究対象とし、近赤外域フェムト秒光パルス励起によるポンプ-プローブ分光を用いる点に特色を持つ。準粒子応答とその偏光特性を温度、励起エネルギー、有効電子相関に対して詳細に調べ、擬ギャップ起源の対称性、および超伝導との関連性を明らかにすることである。 今年度は初年度に行ったk-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Br(k-Br)およびk-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2(k-NCS)における時間分解分光の結果の再現性を確かめると共に、詳しい解析を行った。また比較として超伝導を示さないk-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Cl(k-Cl)における測定を行った。その結果、k-Br、k-NCSでは前年度観測されたPG応答の他に緩和時間の長い応答成分があることがわかった。この応答は新たに測定したk-Clでは観測されなかったため、SC由来の応答であると結論できる。また驚くべきことにSC応答が現れる温度は、k-NCSでは10Kであるがk-Brでは40K付近であることが判明した。電気抵抗測定などの結果ではk-Brの超伝導転移温度(Tc)は13Kであるので、この振る舞いはSCゆらぎが関与していることが示唆される。このような大きな違いは電子相関効果が影響していることが強く示唆される。 このようにPG応答とSC応答が区別されて観測されたことは、SCがPGの直接的起源ではないことを意味しており、PGの起源を解明する上で非常に重要な示唆である。 またk-NCSに対して圧力下時間分解分光測定を行い、印加した圧力に依存して光誘起準粒子の緩和時間が変化することがわかった。電子相関効果が光誘起準粒子ダイナミクスに影響している証拠であり、今後PG応答、SC応答に対する電子相関効果を考える上で重要となる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
k-Br、k-NCS両物質でPG応答の他に応答があることを発見し、k-Clと比較することでそれがSC由来であることを明らかにした。またSC応答の現れる温度は電子相関によって異なっていることも見出すことがきた。これはPGの起源を考える上で、SCがPGの直接的起源ではないことを強く示唆する結果ある。 平行して行っていたk-NCSにおける極低温圧力下時間分解分光測定により、光誘起状態の緩和時間が圧力に依存することを明らかにした。この成果は論文としてまとめることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
PGの起源を明らかにするため、系統的に冷却速度を変えた測定行う。PG応答が現れる70-80K付近の温度はBEDT-TTF分子の構造転移が起こる温度に一致しており、冷却速度を変化させるとこの転移を抑制することが知られている。予備的な調査を行ったところ、冷却速度に依存して応答が変化して応答が若干変化していたようなので、より系統的に測定を行うことでPGの起源を明らかにしたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初温度コントローラーを購入する予定であったが、反射率変化測定に用いているロックインアンプの修理、また海外の学会に招待され、その参加費、旅費に予算を優先的に充てた。温度コントローラーに関しては共同研究者所有のものを共同で使用させて頂き、購入を控えた。
|
次年度使用額の使用計画 |
今年度は、国際学会の学会参加費、旅費、光学部品購入に予算を充てる予定である。
|