研究課題/領域番号 |
15K17686
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
吉田 紘行 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30566758)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | カゴメ格子反強磁性体 / フラストレーション / スピン液体 |
研究実績の概要 |
本年度はCaカペラサイトの微小単結晶を用いた精密結晶構造解析、粉末試料における磁化、比熱測定を行い、フラストレートしたカゴメ格子にける磁気基底状態を明らかにする事を目的として研究を行った。 単結晶X線回折実験から本物質の結晶構造を精密に決定し、Caカペラサイトの空間群がP3m1であり、磁性を担うCu2+イオンが歪みの無いカゴメ格子を形成している事を明らかにした。 磁化測定からは、T* = 7 Kで磁化が僅かに増大し飽和する振る舞いを観測した。磁化過程において強磁性的な状態を示唆するモーメントの発達が観測されないことから、T*以下では反強磁性的な状態が実現している事が示唆される。比熱ではT*で相転移を示す明確なピークは見られなかったが、クロスオーバーを示唆する比熱のカスプが観測された。興味深い事に、本物質は絶縁体であるにも関わらず、比熱に温度比例項が観測された。この事は本物質の磁気状態において、特異な磁気励起が存在している事を示している。以上の結果は、Caカペラサイトにおいて、7 Kで通常の反強磁性秩序ではない何らかのユニークな磁気状態が形成された事を示唆している。 粉末試料における試料評価、物性評価と並行して、本物質の単結晶育成を行った。水熱合成法を応用する事で、最大3 mm程度の六角平板単結晶を得る事に成功した。H28年度(最終年度)は本結晶を用いた測定を行う事で、Caカペラサイトの基底状態の解明を効率的に進める事が出来ると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H27年度はCaカペラサイトの微小単結晶における単結晶X線回折実験により結晶構造を決定し、本物質が歪みの無いカゴメ格子である事を明らかにした。また、粉末試料における磁化、比熱測定から7 Kにおいて磁気秩序の形成を示唆する異常を観測した。比熱には温度比例項が観測され、特異な準粒子励起の存在を示唆する結果を得た。一方で、水熱合成法を応用する事により、最大で3 mm程度の単結晶を育成する事に成功した。以上は当初の計画通りの成果であり、H27年度の研究は順調に進展したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
H27年度の研究においてCaカペラサイトの粉末物性測定、単結晶育成に成功した。H28年度(最終年度)は得られた単結晶を用いて、巨視的及び微視的物性測定を行い、本物質の磁気基底状態の解明に取り組む予定である。 巨視的測定では磁化測定と比熱測定を行い、磁化の異方性や比熱の温度比例項の精密な観測を通して、より本質的な磁気基底状態の性質を明らかにする。また、大阪大学先端強磁場科学研究センターでの共同利用実験として強磁場磁化過程測定を行い、1/3プラトーなどの特異な現象を探索する。 微視的には、北海道大学低温研究室との共同研究としてNMR測定、KEKミュオングループとの共同研究としてμSR測定、Cross東海との共同研究として中性子弾性、非弾性散乱実験を行う事で、基底状態でのスピン配列、スピン揺らぎ、磁気相互作用を決定し、本物質の基底状態を解明する。
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