研究課題
CaカペラサイトCaCu3(OH)6Cl2・0.6H2Oは歪み、乱れのないS = 1/2カゴメ格子反強磁性体のモデル物質であり、磁気フラストレーションと量子揺らぎに起因したスピン系の新奇磁気状態の探索と性質の解明を目的として研究を行った。H27年度までの研究で最大6 mm程度の単結晶の育成に成功しており、H28年度はそれを用いた物性測定を行った。磁化、比熱測定の結果、CaカペラサイトはT* = 7 Kに磁気異常が生じることが明らかとなった。この温度で、ab面に平行に磁場を印可した磁化率は低磁場でカスプを示し、3 T以上の高磁場では磁化は弱い磁化を有し飽和した。一方で、比熱にはT*に小さいピークが観測されており、7 Kで磁気転移を示す。また、本物質は絶縁体であるが、T*以下に比熱の温度比例項が存在する事を見出した。この事はCaカペラサイトの磁気状態が通常の磁気秩序とは異なり、特異な磁気励起を有する事を示している。大阪大学先端強磁場科学研究センターで行った70 Tまでのパルス強磁場磁化測定からはメタ磁性やS = 1/2カゴメ格子反強磁性体で予想されている磁化プラトーは観測されなかった。Caカペラサイトはカゴメ格子上で競合する磁気相互作用J1、J2、Jdを有しており、古典モデルで計算されたJ1-J2-Jd磁気相図においてq = 0、√3×√3構造、Cuboc2構造の相境界近傍に位置している。この事は量子臨界点近傍でCaカペラサイトの特異な磁気状態が実現した事を示している。本課題は当初予定した計画よりも大きく進展し、理想的な量子カゴメ格子反強磁性体においてスピン液体的な磁気励起を有する特異な磁気状態を実験的に観測することに成功した。本成果はJournal of the Physical Society of Japan誌に論文として掲載されている。
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Journal of the Physical Society of Japan
巻: 86 ページ: 033704-1~5
http://dx.doi.org/10.7566/JPSJ.86.033704
https://phys.sci.hokudai.ac.jp/~yoshida/