研究課題/領域番号 |
15K17692
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
水上 雄太 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (80734095)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 量子臨界点 / 反強磁性相 / 鉄系超伝導体 / 精密比熱測定 / 不純物効果 |
研究実績の概要 |
本年度は長時間緩和法を用いた比熱システムが立ち上がり、反強磁性量子臨界点の存在が報告されている鉄系超伝導体BaFe2(As,P)2の微小単結晶試料に対して、電子線照射による不純物導入前の予備測定を行った。また磁気量子臨界点あるいは磁性相と超伝導相との関連性が示唆される新たに発見された鉄ニクタイド、カルコゲナイドに対しても、既存のシステムによる測定を行い、本研究目的に対する検証を行った。特に、鉄系超伝導体BeFe2As2に対して過剰にホールドープした系AFe2As2(A=K,Rb,Cs)において、精密磁場侵入長測定を行ったところ、低エネルギーの準粒子励起に従来では説明できない振る舞いが観測された。これは超伝導ギャップが小さい波数では超伝導状態での準粒子の有効質量が増大するというモデルで説明できる。特に、AFe2As2(A=K,Rb,Cs)においてAサイトのイオン半径が大きくなるにつれて、有効質量の増大の効果が顕著になっており、より構造パラメータを変化させた際の新たな量子臨界点の存在を示唆する結果である。本研究結果においては、軌道選択モット転移近傍において新たな反強磁性相が存在するという近年の理論的な提案との関連性が期待される。一方、鉄系超伝導体Fe(Se,S)において、圧力下ではドーム状の反強磁性相が存在し、それをはさみこむ形で高温超伝導相が出現することを圧力下電気抵抗率測定より見出した。この事実はFeSeにおいてS置換に伴う化学圧力効果のみでは磁性や高温超伝導相が観測されないこととは対照的であり、S置換効果と圧力効果の同時制御により、高温超伝導相と磁性相について新たな関係を見出した。これら新たな系に対して、磁性相あるいはその量子臨界性が不純物によりどのように変化するか検証していく必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は特に長時間緩和法の立ち上げとその運用、及び新たに反強磁性相との関連性が示唆される系に対す量子臨界性の検証を行った。本研究課題では、量子臨界点における異常物性の不純物効果を調べることを目的としており、不純物導入前の予備測定を鉄系超伝導体BaFe2(As,P)2及び、AFe2As2(A=Rb,Cs), Fe(Se,S)について行った。立ち上げた比熱測定システムはおおよそ期待した分解能を持っており、本研究課題で対象とする50-100マイクログラム以下の試料に対しても測定を行える。また、12Tまでの磁場下でも比熱測定を行うことができ、長時間緩和法を用いた比熱測定システムの立ち上げに成功したと言える。現在、これらの試料に対して電子線照射による不純物導入を行っている段階であり、今後立ち上げた比熱測定システムや既存の測定装置を用いてその物性がどのように変化するか調べていく。
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今後の研究の推進方策 |
現在、フランスのエコールポリテクニークとの共同研究により鉄系超伝導体及び、他の非従来型超伝導体に対して電子線照射を用いた不純物導入を行っている段階である。今後はこれらの物質に対して、立ち上げた装置により比熱測定を行い、その温度依存性がどのように変化するか検証していく予定である。また、既存の磁場侵入長測定装置やネマティック感受率測定装置等も合わせて測定を行っていくことで、これらの系において量子臨界性がどのように変化するか、及びその超伝導状態との関連性について詳しく調べていきたい。電子線照射実験に対しては、複数回出張して実験を予定しており、照射による影響を逐次調べていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題では、比熱測定システム立ち上げに伴う寒剤費等の消耗品費用が計上してあるが、それらの使用計画に変更が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究課題では、温度センサー等の消耗品を使用するが、非常に繊細な素子であるため壊れやすい。当初の計上数以上に必要となる場合が生ずる可能性がある為、これにあてていきたい。また、低温実験に必要となる寒剤費用も、実験予定が変更になることが多くある為、当初の計上通りに使用するのは非常に困難である。したがって、次年度使用額はこれらの支出に使用していく予定である。
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