研究課題/領域番号 |
15K17694
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松浦 弘泰 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40596607)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ジャロシンスキー守谷相互作用 / スピン軌道相互作用 / 5d電子系 |
研究実績の概要 |
2015年度は、ジャロシンスキー・守谷相互作用の導出と、その起源の一つであるスピン軌道相互作用に着目し、以下の研究を行った。 1)磁気量子臨界点近傍での反対称スピン軌道相互作用の繰り込み効果:量子臨界点近傍での反対称スピン軌道相互作用のくりこみ効果に関しての議論を行い、強磁性量子臨界点近傍では反対称スピン軌道相互作用は大きく繰り込まれること、反強磁性量子臨界点では小さく繰り込まれることを明らかにした。本研究内容はJ.Phys.Soc.Jpn.の2015年4月号に掲載され、Editors’ choiceになった。 (2)強磁性体と重い原子を含んだ金属界面におけるジャロシンスキー・守谷相互作用の導出:5d電子を含んだ重い金属と強磁性体界面には、ラシュバ効果が生じることが知られている。このラッシュバ効果を起源として、強磁性体中のスピン間にはジャロシンスキー・守谷相互作用が生じることが知られているが、その相互作用とラシュバ効果の関係は詳細には調べられていなかった。そこで、本研究では、金属中の局在スピン間の相互作用であるRKKY相互作用を応用することで、強磁性体中のスピン間のジャロシンスキー・守谷相互作用を導出した。その結果、ラシュバ相互作用が小さな時、ジャロシンスキー・守谷相互作用はラシュバ相互作用と比例関係にあるが、ラシュバ相互作用と伝導電子の運動エネルギーが同程度の時、ジャロシンスキー・守谷相互作用は最大となり、ラシュバ相互作用がさらに大きくなると、ジャロシンスキー守谷相互作用が小さくなることを示した。(日本物理学会誌欧文紙J.Phys.Soc.Jpn.に投稿中) 3)スピン軌道相互作用と多体効果の協奏:5電子系におけるスピン軌道相互作用の役割に関するこれまでの研究成果と1)の研究成果をまとめ、その内容が雑誌、固体物理(アグネ技術センター)の2016年2月号において掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では絶縁体の磁性体に関するジャロンシスキー守谷相互作用の導出に関してのみの議論を展開する予定であった。しかし、伝導電子を含んだ系にまで研究対象を広げることで、ジャロシンスキー守谷相互作用の起源の一つである、スピン軌道相互作用のより深い理解を得ることができた。 また、研究実績の概要で示すように、これまでの5d電子系を含むスピン軌道相互作用の研究成果を雑誌、固体物理に発表でき、当初の計画通り科研費の年度の早い段階から研究成果を社会にアピールできたと思われる。絶縁体磁性に関するジャロシンスキー守谷相互作用に関しては、まだ論文にはなっていないものの、当初の研究計画通りロシアのグループとの共同研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画である絶縁体磁性でのジャロシンスキー守谷相互作用の導出に関する研究を行うとともに、2015年度に培った遍歴電子系でのスピン軌道相互作用の役割に関する理解を深めていきたいと考えている。特に、絶縁体磁性ではロシアのグループとの共同研究を進め、5d電子系におけるジャロシンスキー・守谷相互作用の導出に関する研究を推し進める。特に、ジャロシンスキー守谷相互作用の導出の際に用いられる超交換相互作用おいて、中間状態の取り扱い方を群論を用いて工夫することにより解析的に計算可能な方法論を示すことを目指す。また、遍歴電子系でのスピン軌道相互作用の役割に関しては、当初の研究計画には含まれてはいないが、スピン軌道相互作用という点で共通の概念を含むので、研究を進めていきたいと考えている。特に、本科研費の研究計画との対応を示すため、伝導電子を保持したキラル磁性体に適用し、その系におけるジャロシンスキー守谷相互作用の導出の研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入予定であった物品は、これまで利用していたもので十分利用可能であった。また、その他に計上していた論文投稿費は共同研究者に支払って頂いたため生じなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
2016年度は、計画通り、国際会議や国内会議の出席や共同研究者との打ち合わせによる旅費、ソフトウエアの購入と論文投稿費に用いる予定である。次年度使用額は、主に物品購入と旅費に当てることを計画している。
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