最終年度は、以下三つの研究を行った。 1)5d電子系での多極子間のジャロシンスキー・守谷相互作用:5d軌道からなるt2g軌道に1つの電子が占有した状態を仮定し、その5d電子が保有する多極子(双極子、四極子、八極子)間のジャロシンスキー・守谷相互作用のスピン軌道相互作用依存性を解析した。その結果、多極子間のDM相互作用の存在を明らかにし、また、格子のゆがみの形状により、そのスピン軌道相互作用依存性が顕著に異なることを明らかにした。本結果は、arXiv(https://arxiv.org/abs/1804.04874)に投稿した。 2) CsCuCl3の磁場下(磁場がc軸に平行な時)・高圧下で相図の解明:最近、CsCuCl3の高圧下・高磁場下での磁化測定(磁場がc軸に平行な時)から、Cuのスピン構造がこれまで発見されていないup-up-down (uud)構造であることが提案された。そこで、常圧下・高磁場下での解析に優れた二国・斯波らの理論研究を発展させ、高圧下・高磁場下での理論研究を展開した。その結果、高圧下で実験で提案されたものと同じ、uud構造が現れることを明らかにした。さらに高圧下では、coplanar Y構造が現れることを提案した。本結果は、arXiv(https://arxiv.org/abs/1804.09481)に投稿した。 3)固体中電子の磁性再考:昨年度に展開した軌道磁性の議論のレビュー記事が固体物理((株)アグネ技術センター)で出版された。
研究期間全体を通して、遍歴的な系や多極子間でのジャロシンスキー・守谷相互作用、磁気量子臨界点近傍での反対称スピン軌道相互作用の繰り込み効果などの研究を進めることができ、当初予定していた研究内容より、豊富な研究内容を行うことができた。
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