新しい陰イオン置換反応を確立し、強相関遷移金属酸化物に対する物性制御と新奇物性の開拓を行うことを目指し、さまざまな遷移金属酸化物に対して、有機物の熱分解を利用した陰イオン置換反応を試みた。H28年度は特に、メラミン(C3H6N6)を利用した酸化物の窒化反応により、新物質であるSnNCo3やカルボジイミドLn2O2NCNの合成に成功した。 メラミンを用いた反応はこれまで、2元系の窒化物および炭化物の合成にのみ適用されてきた。本課題では、合成条件を検討し、アンチペロブスカイト型化合物を合成することで、より複雑な化合物の合成にもメラミンを用いた窒化反応が適用できることを示した。また、メラミンが窒素と炭素の両方を含む点に着目し、直線分子NCNを陰イオンとして含むカルボジイミドの合成にも取り組んだ。この結果、混合アニオン化合物のLn2O2NCNの合成にも成功した。合成したLn2O2NCNに対して磁化測定を行った結果、二重結合によって結合したNCNの特異な分子形状に起因して、低次元化した磁性を示すことがわかった。カルボジイミドにおける特徴的な磁性は、NCNなどの特異な分子形状をもつ陰イオンが物性に大きく影響を与えることを示している。 混合陰イオン化合物の示す特異な物性として、新物質Ca3ReO5Cl2における多色性を見出した。多色性は、見る方向によって物質の色が異なるという光学現象である。混合アニオン化合物では、カチオンのまわりに2種類以上のアニオンが配位するため、単純な酸化物では実現できない配位環境を作ることができる。Ca3ReO5Cl2では、四角錐型という特異な配位によって、光学遷移の選択則が偏光に依存し、見る方向色が変わることを明らかにした。この結果は、混合陰イオン化合物の持つ特殊な配位環境に着目した、光学特性のデザインにつながると考えられる。
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