研究課題
・角度依存XMCD装置の改良として、試料マニピュレータの輻射シールドの改良、試料マニピュレータを上下から押さえる機構の作製、およびチャンバ内の試料電流計測線の同軸信号線への変更、を行った。これらを通じ、測定信号に見られていた機械的および電磁的ノイズを減少させることに成功した。さらに、フーリエ変換を使用することによって、時間的に変化する信号から左右円偏光の切り替えに由来する信号だけを精度よく抽出する手法を見出した。これにより、S/N比の改善およびXMCDのバックグラウンドの抑制が可能であることが明らかになった。・マグネタイトFe3O4薄膜において、長年その機構の詳細が明らかになっていないVerwey転移と呼ばれる電荷・軌道秩序を伴う相転移の機構解明につなげるべく、角度依存XMCD実験による電子軌道状態の観測を試みた。前述の装置および解析法の改良により、軌道磁気モーメントの異方性およびXMCDスペクトルのわずかな異方性を従来よりも高い精度で求めることができた。・磁壁移動を利用した磁気記録デバイスとしての応用が期待されるCo超薄膜/重元素金属(Pt, W等)多層膜のXMCD実験を行った。その結果、Coの軌道磁気モーメントの異方性と、界面でのジャロシンスキー守谷相互作用(磁壁の形成に関与する相互作用)の大きさ・符号との間に相関が見られることが分かった。・強磁性体と半導体の双方の性質をもつ材料の実現を目的として作製された、半導体Geに磁性元素Mnを少量ドープした系のXMCD実験を行った。その結果、Mn濃度の揺らぎに由来して強磁性成分と常磁性成分が共存していることが明らかになり、磁気抵抗測定の結果と矛盾しない結果が得られた。・LSMO薄膜の角度依存XMCDの追測定を行い、磁性元素の電子軌道の形状が基板応力によって影響を受けるとする昨年度の結果の再現性を確かめた。
2: おおむね順調に進展している
本年度行った装置改良および解析法の改良によって、よりバックグランドを低減しS/N比を改善した質の良いXMCDのデータが得られるようになってきている。実際に、【研究実績の概要】で述べた通り、Fe3O4薄膜やCo/重金属多層膜のXMCDでは、これまでの測定ではっきりと見えていなかった軌道磁気モーメントの異方性やスペクトル形状の異方性をより精度よく測定できるようになってきている。これらのことから、測定・解析ともにおおむね順調であると判断できる。
引き続き、磁気異方性を示す他の強磁性体について角度依存XMCDの実験を行い、磁気異方性、軌道磁気モーメントの異方性ならびにスピン密度分布の異方性との関係性を引き続き明らかにしていく。対象とする磁性体として、重金属なしに垂直磁気異方性を示す磁性材料であるスピネルフェライトCoFe2O4薄膜や逆ペロブスカイト型化合物Mn4N薄膜、またスピン軌道相互作用の影響がより顕著に観測されると期待される4d元素系のSrRuO3薄膜、等を検討している。特にCoFe2O4薄膜のように複数の磁性元素を含む系に対しては、XMCDの元素選択性を用いることで、各元素からの磁気異方性への寄与を明らかにすることができると期待している。また、本年度に行った装置改良および解析法の改良により、SrRuO3などよりX線吸収シグナルの小さい試料に対しても精度の良い測定が行えるようになると期待される。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 9件) 備考 (1件)
Phys. Rev. B
巻: 95 ページ: 014417--1-6
https://doi.org/10.1103/PhysRevB.95.014417
http://wyvern.phys.s.u-tokyo.ac.jp/