研究課題/領域番号 |
15K17697
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
今井 良宗 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (30435599)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 薄膜 / 鉄系超伝導体 |
研究実績の概要 |
(1)人工超格子を形成するFeSe1-xTex薄膜をフッ化物基板,酸化物基板上に作製し,その基礎物性を評価した.特に磁場中での輸送特性やマイクロ波伝導度スペクトルの測定を行い,超伝導転移温度が急激に変化する組成において,超伝導揺らぎの性質や電子構造に急激な変化を示唆する結果を得た. (2)障壁層の候補物質となる材料(5種類程度)を基板上,あるいは,FeSe薄膜上に製膜し,その基礎特性(反射高速電子回折,電気抵抗率の温度依存性,X線回折,原子間力顕微鏡像等)を評価した.その結果,FeTeが障壁層の候補物質となりうることを明らかにした. (3)人工超格子薄膜を作製するために必須となる,平滑な表面を得るために,低成長レートで,FeSeおよびFeTeを製膜するための最適な条件を検討した. (4)一定の周期で,同じ層数ずつFeSeとFeTeを積層した人工超格子薄膜(FeSe)n-(FeTe)nを試作した.X線回折実験の結果,超周期構造を示唆するサテライトピークを観測した.界面の反射を無視した単純なステップモデルによる計算の結果は,ほぼ狙い通りの積層周期を持つ超格子薄膜が得られたことを示唆している.また,透過電子顕微鏡を用いた断面像の観測から,一定間隔でSeとTe濃度に変調は見られるものの,FeSe(FeTe)層へのTe(Se)の混入が見られることがわかった.電気抵抗率の温度依存性を測定した結果,FeSeよりは高い温度で超伝導転移を観測し,また,各層の厚さの増加に伴う異方性パラメータの増大を観測した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
人工超格子薄膜を作製する前の単一組成の薄膜に対する基礎物性の評価に関して,磁場中での輸送特性やマイクロ波伝導度スペクトルに興味深い振る舞いを観測し,予定よりも多くの時間を割くことになった.また,障壁層の候補物質の選定において,FeSeが安定な温度領域で,2次元的に平滑な表面を持つ薄膜を成長させることができる材料の選定作業に,予定よりも大幅に時間を要した.それ以外の項目に関しては,順調に作業を進めることができている.
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今後の研究の推進方策 |
透過電子顕微鏡の断面像においてSeとTeの相互拡散が確認されたため,成長レートや基板温度などを見直すことにより,相互拡散を低減させることができるかどうかを検討する.また,Teを含まない障壁層として,不純物を置換したFeSeが使用できるか否かについて調べる.その後,FeSeと障壁層(X)を交互に積層した人工超格子薄膜(FeSe)n-(X)mを作製する.積層周期を系統的に変化させた薄膜の特性を詳細に調べることにより,障壁層の厚さや超伝導層の層数と超伝導転移温度との関係を明らかにする.
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