研究実績の概要 |
(1)人工超格子を形成するFeSe1-xTex薄膜をフッ化物基板,酸化物基板上に作製し,その基礎物性を評価した.特に輸送特性を精密測定した結果,構造相転移と超伝導とが競合関係にあることを新たに見出した. (2)障壁層をFeTeとした人工超格子薄膜(FeSe)m-(FeTe)nを作製した.FeSe層の厚さを固定し,FeTe層の厚さを系統的に変化させた人工超格子薄膜では,FeSeを単独で製膜した場合よりは高い超伝導転移温度を有する薄膜を得た.しかし,FeTe層の厚さを変化させても,超伝導転移温度の変化は小さかった.磁場中での電気抵抗率測定から上部臨界磁場の異方性を見積もったところ,FeTe層の厚みを増大させるに連れて,異方性が小さくなることがわかった.これは,FeSe層が超伝導を担っていると考えると,説明できない振舞いである.したがって,FeSeとFeTeとの界面で,SeとTeが相互拡散しており,Seが侵入したFeTe層が超伝導を担っているものと考えられる. (3) FeTe層の厚さを固定し,FeSe層の厚さを系統的に変化させた人工超格子薄膜で,上部臨界磁場の異方性を見積もったところ,FeSe層の厚さを増大させるに連れて,異方性が増大することが明らかとなった.これは(2)で予想した通り,界面でSeとTeが相互拡散することによって,FeTe層がFe(Se,Te)となることで超伝導を担っていると考えると説明することができる.したがって,FeTeを障壁層とすることは,相互拡散の問題で困難であることがわかった. (4) 新たに,FeSeと格子定数が近く,また,製膜温度が同程度である材料の中から,障壁層となりうる材料を検討した.(Fe,Co)Seを障壁層として,超格子薄膜を作製したところ,金属的な挙動を示すのみで,超伝導特性を観測することはできなかった.
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