研究課題/領域番号 |
15K17701
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大久保 毅 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任講師 (00514051)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | テンソルネットワーク / フラストレーション / 磁性体 / 相転移 / スピン軌道相互作用 / キタエフ模型 |
研究実績の概要 |
前年度までに行っていた、スピン軌道相互作用の強いハニカム格子物質Na2IrO3に対する第一原理ハミルトニアンの、テンソルネットワーク変分法による基底状態計算を発展させ、同種のハニカム格子物質α-RuCl3の有効模型の基底状態計算を行った。この有効模型は、相互作用する方向に応じて、Sx, Sy, または Sz成分がイジング的に相互作用するキタエフ相互作用に加えて、ガンマ相互作用と呼ばれる、キタエフ相互作用とは異なる成分の非対角相互作用 (例えば、SzSzのキタエフ相互作用に対しては、SxSy+SySxの非対角相互作用)を持ち、キタエフ・ガンマ模型と呼ばれている。full update法とsimple update法を併用して、無限系の波動関数を虚時間発展法により最適化した結果、これまでに厳密対角化法(ED)や密度行列繰り込み群法(DMRG)で予想されていたよりも、スピン液体が安定化する領域が狭く、広い領域で磁気秩序状態が最低エネルギー状態となることを明らかにした。ED及び、DMRGでは、Sz、Sy、Szに関する異方性がハミルトニアンに明示的に(ED)、又は、擬一次元形状を通じて間接的に(DMRG)含まれており、この点が、等方的な二次元系を取り扱った本研究との結果の差異の一つの原因だと考えられる。 また、最近合成された有機磁性体の有効模型として、強磁性相互作用と反強磁性が共存することでフラストレーションが存在する S=1/2正方格子fully-frustratedハイゼンベルグ模型の磁化過程をテンソルネットワーク変分法で解析した。実験で飽和磁化の1/2あたりに観測されていた磁化曲線のうねりが、有効模型の磁化曲線でも観測され、さらに、その近傍で、スピン揺らぎが非常に強くなっていることも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画していたカゴメ格子ハイゼンベルグ模型、ハニカム格子キタエフ模型に関連した研究が順調に進んだことに加えて、実験グループとの共同研究により、新しいフラストレート磁性体にテンソルネットワーク法を適用し、物性解明につなげることができた。また、研究会での議論を通じて、海外のテンソルネットワーク法の研究者との共同研究も進み、今後の研究の広がりも期待出来る。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、フラストレート磁性体の基底状態を計算する手法として、テンソルネットワーク変分法の有効性が確認され、また、計算コードの整備も進んできた。今後は、実験グループとの共同研究を広げ、種々のフラストレート磁性体の物性解明にテンソルネットワーク法を適用していきたい。また、本研究課題の終了に向けて、これまでの研究成果の国内・国際会議での発表を行い、併せて論文としての公表も進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加した国内・国外の研究会で招待講演になり参加費・旅費のサポートなどが得られて、旅費を節約することができたため、次年度使用額が生じた。この分は、次年度に国内・国外の研究会に積極的に参加し、研究成果を発表する形で、使用する計画である。
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