研究実績の概要 |
表面弾性波(SAW)による原子空孔軌道がもつ四極子の詳細な歪み応答を明らかにするために,曲げ応力による微小な外部歪みdxxをウェーハに室温で精度2.14x10-6で印加できるセルを開発した。応力なし(dz=0 um)で4.7x10-5だけ示したソフト化が,応力の印加により,dz=30 umで2.5x10-5,dz=50 umで0.6x10-5と抑制されることが分かった。さらにソフト化を示した最低温38 mKで磁場を印加すると,dz=0 umで4.7x10-5,dz=30 umで1.3x10-5,dz=50 umで0.1x10-5だけ増大した。応力がない状態では9 Tの磁場印加によりソフト化が完全に回復されるのに対し,応力下のソフト化は磁場を印加しても完全に回復されないことが分かった。 開発した曲げ応力セルを用いてウェーハに応力を印加すると,ウェーハ表面には歪みexxを誘起し,他の歪み(eyy, ezz, eyz, ezx, exy)は励起しない,もしくは非常に小さく無視できる大きさであることが分かった。歪みexxは対称歪みeBとeuにより構成される。応力印加中の正方対称場で対称歪みeBやeuは原子空孔軌道の四極子Ouと結合する。そのため,非常に小さな応力場の印加において,ハミルトニアンにはg Ou euという応力印加の場が加わることになる。そこで,そのハミルトニアンに対して,ウェーハ表面にはSAWが誘起するする四極子Ou, Ov, Ozxを考慮した四極子感受率を用いた解析を行った結果,ソフト化の抑制される様子を定性的に再現できた。しかし,大きな応力を印加したときの定量性は再現できなかった。これは,今,考えている原子空孔軌道がL=1のため,解析には全対称表現の電気16極子と対称歪みeBとの結合の効果が含まれていないため,体積変化の大きいところで定量性の問題が現れたと考えられる。
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