研究課題/領域番号 |
15K17706
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
田中 雅章 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50508405)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | スピントロニクス |
研究実績の概要 |
強磁性体細線に電流を流すと,細線中の磁壁は伝導電子からのスピントランスファートルクなどの影響で移動する.本研究では電流を流した際に磁壁が受けるトルクの影響を調べるために,電流印加時の挙動がわかりやすい円盤状のバブル磁区の電流駆動現象を調べる.本年度は,TbFeCoアモルファス合金またはTb/Co多層構造膜の細線中のバブル磁区の電流駆動現象を調べた.これらの材料はどちらも4f遷移元素のTbと3d遷移元素のCo/Feの磁気モーメントが互いに逆方向を向くフェリ磁性体である.Tb/Co多層膜ではTbの磁気モーメントが主体となるREドミナント試料とCoの磁気モーメントが主体となるTMドミナント試料を用意することができる. バブル磁区を生成した強磁性細線に対する電流駆動実験の結果,バブル磁区に電流を印加した際の挙動は細線の飽和磁化に依存し,飽和磁化が小さい細線ではバブル磁区は消失し,飽和磁化が大きい細線ではバブル磁区は電流印加で成長することを明らかにした.この結果は,マイクロマグネティックスシミュレーションとも定性的に一致することを明らかにした. また,バブル磁区の電流駆動実験では,スピントランスファートルク以外にも酸化防止に用いたプラチナ層からのスピンホール効果がその挙動に影響していることがわかった.この現象を詳しく調べるために,REドミナント試料とTMドミナント試料のTb/Co多層膜を用意して電流駆動実験を行った.実験からTMドミナント試料とREドミナント試料では同じ磁化方向のバブル磁区でもプラチナ層からのスピンホール効果の影響が逆に働くことがわかった.この結果からスピンホール効果などの影響が磁化方向ではなく,3d遷移元素のCo原子が持つ磁気モーメントの方向に依存していることが示唆される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究から,強磁性細線中に生成したバブル磁区の電流印加による挙動が,強磁性細線の飽和磁化と関係していることを明らかにした.また,フェリ磁性体であるTb/Co多層膜細線中のバブル磁区では,Tb/Co多層膜と接するプラチナ層からのスピンホール効果がバブル磁区の磁壁に与える影響は,バブル磁区の磁化方向ではなく,3d遷移元素のCo原子が持つ磁気モーメントの方向に依存していることを明らかにした.これまでのところ本研究の目的であるバブル磁区の電流駆動現象の解明はおおむね計画通り進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究を継続して,強磁性細線上のバブル磁区の電流駆動実験を行う.また,バブル磁区の電流駆動現象の工業的な応用を見据えて,バブル磁区の形状が安定した電流駆動を目指す.これまでの研究からバブル磁区の電流駆動実験ではその形状を変えずに駆動することはあまり成功していない.そこで,多層構造などによりバブル磁区の安定を行い電流駆動実験を実施する.
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