研究課題/領域番号 |
15K17707
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
石河 孝洋 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (40423082)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 固体水素 / 硫黄水素化物 / 高温超伝導 / 結晶構造探索 |
研究実績の概要 |
独自に開発した結晶構造探索手法となるポテンシャルエネルギー面トレッキングを500万気圧、600万気圧の固体水素に適用させて新たな金属相の探索を行った。先行研究で予測されている金属の正方晶構造を出発としてシミュレーションを行ったところ、その構造がわずかに歪んだ金属の斜方晶構造が安定構造として得られた。500万気圧では正方晶構造と斜方晶構造がエネルギー的にほぼ縮退しており、加圧と共にポテンシャル面が浅くなって両構造間を自由に変動できる状態が出現する。このとき電子-フォノン結合定数が増大して超伝導転移温度が250 K以上を示すことが明らかになった。これらの成果について高圧科学の国際会議(AIRAPT)で口頭発表を行った。 平成27年度に、ドイツの研究グループが硫化水素を150万気圧まで加圧すると超伝導転移温度が全物質中で最高となる203 Kに到達することを発見し、世界中で大きな話題となった。この高温超伝導性は化合物中の水素が主な原因となって引き起こされていると考えられ、本研究課題と関連性が高い。そこで、遺伝的アルゴリズムを使って硫黄水素化物の結晶構造探索を実行したところ、H5S2という新たな硫黄水素化物が110万気圧以上で出現することを発見した。このとき、水素の1sが硫黄の3pとフェルミ準位で強く混成し、超伝導転移温度が50-70 Kを示すという結果が得られた。 203 Kの高温超伝導に到達する過程で別の超伝導相の出現が実験で発見されているが、これは予測したH5S2化合物で説明できることが明らかになった。これらの成果はScientific Reportsに掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
独自開発した結晶構造探索手法となるポテンシャルエネルギー面トレッキングを128原子で構成される大きな系に適用させて先行研究を超える結果が得られるかを試みたが、現在のところ新たな結果は得られていない。しかし、500万気圧、600万気圧における固体水素の結晶構造と超伝導性について詳細な知見が得られたため、当初に予定していた段階まである程度研究を進めることができた。また、当初の予定にはなかったが、本研究課題となる水素の高温超伝導性と密接に関連している硫黄水素化物の高温超伝導性について新たな知見が得られた。これによって水素化物から室温超伝導を探索するという新たなアプローチによって本研究課題を進めるための準備を整えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
500万気圧以上の圧力領域では固体水素の結晶構造や超伝導性について先行研究を超えるような結果が得られなかった。そこで、今後は実験で到達可能な300万気圧でポテンシャルエネルギー面トレッキングを適用させて、固体水素の金属相・室温超伝導相がこの圧力下で出現するか理論的に検証する。また、当初の予定にはなかった新たなアプローチとして、水素化物から得られる超伝導性に関する知見をうまく活用することで低圧領域で室温超伝導が得られる条件を探索する。
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