研究課題
本研究課題の目的は、第一原理電子状態計算手法と結晶構造探索手法を用いて固体水素及び水素化合物の圧力誘起高温超伝導相を探索することである。平成27年度は、独自に開発した結晶構造探索手法となるポテンシャルエネルギー面トレッキングを固体水素に適用させた。その結果、正方晶金属相から斜方晶金属相への構造相転移をシミュレーションで得ることに成功した。500万気圧では両者がエネルギー的にほぼ縮退しており、加圧と共にポテンシャル面が浅くなってそれらの間を自由に変動できる状態が出現する。このとき電子-フォノン結合定数が増大して超伝導転移温度が250ケルビン以上を示すことが明らかになった。平成27年度にドイツの研究グループが硫化水素を150万気圧まで加圧すると超伝導転移温度が全物質中で最高となる203ケルビンに到達することを発見し、世界中で大きな話題となった。そこで、遺伝的アルゴリズムを使って硫黄-水素系の結晶構造探索を実行したところ、H5S2という新たな硫黄水素化物が110万気圧以上で出現し、50-70ケルビンの超伝導になることを予言した。これらの成果をScientific Reportsに発表した。また、実験グループに協力して203ケルビンの超伝導を示すときの化学組成と結晶構造を特定し、Nature Physicsに発表した。平成28年度は同手法をアルゴン-水素系、酸素-水素系などに適用させて、新奇高温超伝導水素化合物の探索を実施した。アルゴン-水素系ではArH2が最も低圧で金属化が起こり、700万気圧がそのオンセットとなることを予測した。超伝導転移温度は加圧と共に徐々に高くなり、1500万気圧まで加圧するとアルゴン格子中に存在する水素(H2)分子が解離してフェルミ準位での電子状態密度が増大し、超伝導転移温度が8ケルビンから70ケルビンまで飛躍的に上昇することが明らかになった。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 5件、 招待講演 7件) 備考 (2件)
Nat. Phys.
巻: 12 ページ: 835-838
10.1038/nphys3760
http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2016/20160323_1
http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2016/20160510_2