研究課題/領域番号 |
15K17708
|
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
永合 祐輔 東京理科大学, 理学部, 助教 (50623435)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 低温物性 / 超伝導 / 磁束量子渦 / メゾスコピック系 / 超伝導量子干渉計 |
研究実績の概要 |
スピン3重項カイラルp波超伝導特有の磁束渦の検出に向けて、3um×3umサイズのAl/AlOx/Al接合型超伝導量子干渉計(SQUID)および超伝導Sr2RuO4(SRO)微小片を用いた磁化測定デバイスを作製した。また、半整数磁束渦検出に向け、新たにx-z2軸磁場印加用マグネット、熱アンカー、マグネット土台を準備し、温度20mK下でのマグネット動作テストを行った。以上を踏まえて以下の実験を行った。 ・SRO微小片への磁束渦誘起観測:本デバイスにより、以前より高精度な渦検出に成功した(Y.Nago et al, J. Low Temp. Phys. 183 292(2016))。また、カイラル超伝導性の影響を示唆するような2種類の異なる特徴的な渦誘起信号を観測した。 ・リング型SRO微小片による半整数渦探索:試料穴に誘起される半整数渦の検出に向けた2軸磁場下実験を行った。その結果、あるx軸方向磁場下で新たな渦誘起信号を検出した。同様の形状のAl微小片で測定を行ったところ、このような信号は見られなかった。このサイズのSRO試料ではx軸方向の臨界磁場が低く十分な印加磁場範囲のデータが取れなかったため、確証までには至らなかったが、この結果から半整数渦を検出した可能性が期待される。 ・SRO-Ru微小片の磁化測定:本研究の目的の一つであるs波p波位相競合に伴う渦核生成の検出にはまだ至っていないが、Ruの超伝導転移の影響と思われる渦誘起磁場値の特異な温度変化を観測した。 以上の実験結果からSRO 超伝導性解明に向けた進展を得ることができた。SRO-Ru試料においては、これまでの実験結果についてさらに解析考察を進め、成果を論文にまとめた。現在論文雑誌に投稿中である。また、高温測定を見据えてNb/AlOx/Nb接合SQUIDを試験的に新たに作製し、接合の正常動作を確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
半整数磁束渦については、現在のところ検出の確証までには至らなかった。しかし、あるx軸方向磁場で新しい渦信号が出現する現象は、半整数渦の理論予想と矛盾ない結果であり、検出に向けて幾分進展できたと言える。 一連の研究の中の予備実験として、穴が空いていないSRO微小片を測定した結果、通常の超伝導体では見られない磁束渦誘起の発見に成功した。もしカイラルp波超伝導性が影響しているならば、カイラルドメイン壁への渦トラップ(渦シート)の可能性が期待される重要な結果となる。 また、SRO-Ru試料においては、単一SQUIDを用いた予備実験を行い、Ru超伝導転移による影響について新たな結果を得ることができ、順調に進展したと言える。
|
今後の研究の推進方策 |
SRO微小片において観測された2種類の磁束渦誘起に関しては、試料加工時に収束イオンビーム(FIB)によるダメージが完全には回避できておらず、ビームにより試料端に欠陥が生成し磁束渦がピンされやすくなっている可能性もまだ除外できない。これらを解明するために、FIBを使用せず蒸着法を用いた試料を作製し、イオンビームを照射することによる磁束渦誘起の変化を調べることが課題である。 半整数磁束渦検出実験においては、今後臨界磁場の高い、より小さいサイズの試料を作製し、2軸磁場測定を行うことで半整数渦の確証を得られると期待される。 また、Al試料ではSROと分子構造、物性が大きく異なるため、より良い比較対象として、銅酸化物超伝導試料を東京理科大学理学部応用物理学科内の別の研究室に作製していただき、磁化測定を行う予定である。 SQUIDを配列させた``SQUID-array”デバイスの開発も順調に進んでおり(D. Sakuma, Y. Nago et al、 J. Low Temp. Phys. 183 300(2016))、位相競合に伴う自発電流および渦核生成の証拠を得るために、今後SQUID-arrayを用いた磁場空間分布の実験準備を進める予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
費用と製作期間などの関係により、超伝導マグネット一式の設計および購入先企業が変わったことと、予定よりも微細加工利用代がかかったことにより、当初の計画との差が生じたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
主に国内学会旅費および議論のための共同研究機関先旅費、 本課題研究を進める学生の微細加工プラットフォーム使用料に使用予定。 本年度より研究代表者の所属機関が変わったため、実験・議論のために東京理科大学、理化学研究所、物財機構までの出張費に使用予定。また、研究代表者による微細加工プラットフォーム利用の頻度が著しく下がるため、代わりに学生の使用回数が増加。技術補助が必要な機器もあるため、利用料合計が増加する予定。
|