研究課題
銅酸化物高温超伝導体は,長い超伝導の歴史で最も高い超伝導転移温度(Tc)をもつ物質であり世界中で精力的に研究がなされている。しかしながら,その高いTcを示すメカニズムは未だ解明されておらず,更なる詳細な研究で必要である。そこで,銅酸化物で最も高いTcを示す三層系銅酸化物高温超伝導体Bi2Sr2Ca2Cu3O10+delta(Bi2223)の電子構造を明らかにすることを目的とし,分子科学研究所極端紫外光研究施設(UVSOR)のBL7Uにおいて角度分解光電子分光(ARPES)を行った。BL7Uエンドステーションの波数分解能を向上させる改良を行い,また直線偏光及びバルク敏感な低エネルギー励起光を用いることで,今まで観測されなかった新しいバンド分散を世界に先駆けて観測した。これは,3枚あるCuO2面のうち,外側2枚のCuO2面間の相互作用が重要なことを示唆しており,Bi2223が高いTcを持つ起源を探るための新しい知見である。本研究成果は,投稿論文としてまとめる予定である。申請者はフェムト秒時間分解電子線回折(FED)による光誘起した超高速格子ダイナミクスから電子格子相互作用を調べてきた。FEDは,ポンプ・プローブ法によりレーザーパルスで励起された非平衡状態での格子系が電子系の影響を受けながら緩和してく様子を約200フェムト秒の時間分解能で調べることできる。現在では,前所属のドイツ・マックスプランク研究所のR. J. Dwayne Miller研究室との共同研究により,キャリアを供給することで超伝導を発現し,また構造相転移をもつIrTe2のFEDを行い,今まで遷移金属ダイカルコゲナイドで観測されていない超高速格子ダイナミクスを観測した。これは,電子と格子との強い相互作用を示唆しており,構造相転移の起源を理解する上で重要な知見であると考えられる。現在,投稿論文を執筆中である。
2: おおむね順調に進展している
Bi2223のARPESによる研究では,超伝導機構に関わる重要な知見を得ることに成功した。また,遷移金属ダイカルコゲナイドIrTe2では,従来の物質系とは異なる振舞いをFEDにより観測し,その結果をまとめ論文として発表する段階まできている。
銅酸化物,及び鉄系高温超伝導体の電子構造研究をARPESにより引き続き行う。また,測定ビームラインに導入するための6軸マニピュレータを開発する予定である。これにより,高エネルギー分解能で測定を行えるだけでなく,励起光の向きに対する試料の方向を大きく超高真空中で変化させることができるため,Tcが低い超伝導体の超伝導ギャップ等の測定が可能になる。FEDを利用した研究では,ドイツマックスプランク研究所との共同研究を続ける。現在,半導体物質であるIn2Se3をFEDで調べており,その研究を引き続き行う予定である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
Physical Review B
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https://sites.google.com/site/shinichiroidetaims/