研究課題/領域番号 |
15K17716
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
長谷川 雄央 茨城大学, 理学部, 准教授 (10528425)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 複雑ネットワーク / 相転移 / パーコレーション / 感染症モデル / 格子確率モデル |
研究実績の概要 |
1:本研究は非ユークリッド的グラフ(複雑ネットワーク)上の数理モデルの相転移とグラフ構造の間の数理的関係を調べること、特に複雑ネットワーク上のパーコレーションが示す多重相転移の特性とその原因を明らかにすることを目的としている。複雑なグラフの議論を行う前に、まずは単純な設定のもとで多重相転移の性質を詳細に調べておく必要がある。そこで、我々は多重相転移を示す最も単純なグラフであるツリー上のパーコレーションを調べた。無限ツリー上のパーコレーションと有限ツリー(の無限極限)上のパーコレーションのそれぞれについて、母関数による解析を行い、二種類の無限グラフにおける相転移の違いと対応関係を明らかにした。さらに、後者のグラフ(こちらは複雑ネットワークと共通する臨界相を示す)に関して、臨界相中の連結成分の分布関数を解析し、パーコレーションの多重相転移一般に期待されるような統計的性質を明らかにした。
2:次年度以降に複雑なネットワーク上の格子確率モデル(感染症モデル)の数値シミュレーション研究を行うため、その準備研究として、複数の感染源を持つ場合の感染症モデルのダイナミクスを調べた。従来の感染症モデル研究では見過ごされかつ数値シミュレーションを行う際に障害となる問題として、「初期感染源の割合をいかに設定するか」がある。本研究では、単純なネットワーク(レギュラーランダムネットワーク)上の感染症モデルについてマスター方程式及び母関数を使った解析と数値シミュレーションを行い、有限割合の感染源からダイナミクスが始まる場合、(従来の感染症モデル研究が想定していた)単一の感染源で始まる場合には見られなかった相転移が新たに起こることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度実施した研究は本研究課題を遂行するための準備作業に相当する。得られたツリー上のパーコレーションの知見(多重相転移の統計的性質等)により、次年度以降、複雑な繋がりを持つ非ユークリッド的グラフにおける多重相転移の議論を行うことができるようになった。また、初期感染源の割合が感染症モデルの相転移に与える影響を明確にしたことで、複雑ネットワークの格子確率モデルの数値シミュレーション研究を行う際の障害が取り除かれた。申請時の計画と比較すると、現在の進捗状況はやや遅れているが、今年度の研究成果は次年度以降の研究遂行を促進するものである。
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今後の研究の推進方策 |
申請時に予定していた、サイトパーコレーションの秩序相が消失する原因を特定する研究を行う。また、格子確率モデルの示す多重相転移の数値計算研究を進める。申請時に提案した共同研究体制により、並行して研究を遂行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は解析的な研究が主であり、研究に数値シミュレーションの占める比重が大きくなかったため、計算機の購入を次年度に回した。その結果、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度より数値シミュレーションによる研究の比重が大きくなるので、計算機を購入する。また、共同研究を促進するために、各共同研究者との打ち合わせの機会を今年度より多く設ける。研究成果発表と情報収集のため、多くの学会に参加する予定である。
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