研究課題/領域番号 |
15K17717
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
江端 宏之 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 研究員 (90723213)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アクティブマター / パターン形成 |
研究実績の概要 |
細胞運動に代表されるように、多くの生物は変形をしながら自発的に動き回ることが出来る。生物・無生物に関わらず外からの刺激を必要としない自発的運動をするためには、非対称な形状など、空間的な対称性の破れが不可欠である。私は粒子の形状の自発的対称性の破れと自発運動の間にある関係を実験的に明らかにすることを研究の目的としている。水よりも重く粘性の高いシリコンオイル上に水滴を乗せ垂直加振すると、水滴と空気の気液界面のみ共振を起こし、水滴上に局在した共振波(ファラデー波)を作ることができる。すると、ファラデー波が液液界面に作る表面波により、液滴は変形をしながら自発的に運動する。これまでの実験により液滴上のファラデー波の対称性が自発的に破れることで液滴の併進運動が起こることが示唆されていた。私はファラデー波の自発的対称性について調べるため、直方体容器中でのファラデー波について調べた。液滴と同程度の大きさの直方体容器に絵の具で白濁させた水を満たしたものを垂直加振し、固定境界条件でのファラデー波を起こした。このときのファラデー波の形状をレーザー変位計でスキャンすることで調べた。その結果、周波数を徐々に下げていくと、液滴上のファラデー波と同様にある臨界周波数以下でファラデー波の前後対称性が自発的に破れることがわかった。このことからファラデー波の自発的対称性の破れは、ファラデー波が狭い空間に閉じ込められていることにより起こっていることが分かった。私はさらにシリコンオイルの粘性が低い場合に見られる複雑な液滴運動について調べた。その結果、静止状態から往復運動、振動的直線運動への運動モード分岐が起こることを発見した。これらの複雑な運動はファラデー波の腹の数と対称性の破れが時間的に変化することで起こることが分かってきている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
液面をレーザー変位計でスキャンすることで、液面の形状を測定する装置を作成し、臨界周波数以下でファラデー波の対称性が自発的に破れることを定量的に測定することができた。また、ファラデー波の振幅の空間分布を波数空間で表示すると、前後対称性の破れにかかわる成分が臨界周波数以下でスーパークリティカル分岐を起こすことを発見した。液滴の併進運動への分岐もスーパークリティカル分岐になっていることが分かっているため、この結果からも運動の分岐とファラデー波の対称性の破れが関連していることが示唆されている。 シリコンオイルの粘性が低い場合に見られる複雑な液滴運動について測定し、相図を作成した。その結果、静止状態から往復運動、振動的直線運動への運動モード分岐を発見した。さらに、低粘度での液滴運動は温度に大きく依存することが分かってきており、温度が低くなると多角形運動が支配的になることも分かった。
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今後の研究の推進方策 |
現在、固定境界条件のファラデー波では前後対称性の破れのみが見つかっているがその他の対称性の破れも現れるか調べる必要がある。シリコンオイルの粘性が低い場合に見られる、静止状態から往復運動、振動的直線運動への運動モード分岐はアクティブマターの現象論的モデルにおいても報告されているため、分岐の種類などをモデルと比較する。また、液滴運動とファラデー波の形状の動的な変化の関係を高速度カメラを使って測定する。 多角形運動や蠢動運動についても運動の相図の作成を進める。低粘度では液滴運動が温度に大きく依存することが分かってきた。そこで、温度制御をすることで実験の再現性を改善すると共に、運動の温度依存性を測定する。
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