多くの生物は体の形状を変形させることで、這う・泳ぐなど自発的な運動をすることが出来る。しかし、粒子形状の変形に誘起された自発運動において、変形と運動の間に普遍的な関係性があるかは分かっていない。本研究の目的は無生物系の実験を通して変形に誘起された自発運動に対する物理的な知見を深めることにある。今年度は泳ぐ液滴の集団運動について数値的に検証するため、変形する自己駆動粒子のモデル方程式に変形を考慮した排除体積効果を導入した数理モデルを使い集団運動の数値計算を行った。その結果、周期的境界条件では泳ぐ液滴のように短軸に向かって運動する粒子集団より線維芽細胞のように長軸に向かって運動する粒子集団のほうが高い配向秩序を示すことが分かった。一方、細長い流路においては短軸に向かって運動する粒子集団は高い配向性を持った集団運動をする一方、長軸に向かって運動する粒子集団は対流状の周期的な渦形成をすることが分かった。このように、形状と運動の関係、そして境界条件によって集団運動が大きく異なることが分かった。 私はさらに生物・無生物系に関わらず変形に誘起された自発運動の持つ普遍的な性質を調べるために、ゲル上の線維芽細胞の形状と運動について詳細な解析を行った。その結果、線維芽細胞の形状と運動の間にある関係式が、流体中を伸び縮みによってアメーバ遊泳する粒子の運動の方程式と等価になることが分かった。これは伸び縮みによる自発運動が系の詳細によらない普遍性を持つことを示唆している。また、私はアメーバ遊泳による運動の方程式と変形する自己駆動粒子のモデル方程式を組み合わせることで、線維芽細胞の形状と運動の統計的な性質をほぼ全て定量的に説明することが出来ることを示した。このように、変形する自己駆動粒子のモデル方程式を使うことで、泳ぐ液滴のダイナミクスだけでなく細胞運動を定量的に再現することが出来ることを示した。
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