平成29年度は、周期駆動系における可積分性の影響について調べた。非可積分系においては、周期外場がかかった量子多体系を長時間放置すると、最終的に温度無限大までheatingすることが知られている。一方、可積分系においては、保存量が存在するために、系のエネルギーはある有限温度の値で止まり、非自明な定常状態が実現するだろうと考えられてきた。しかし、可積分系の数値計算の結果、系のサイズと外場の周期の両方を無限大にする極限で、保存量が存在するにもかかわらず、温度無限大までheatingを起こすことが明らかとなった。これは、従来の予想を覆す結果である。 また、孤立量子系の緩和過程の基礎理論についても研究を進めた。孤立量子系の緩和は、「固有状態熱平衡化仮説」とよばれる仮説によって説明される。この仮説は、多体系のハミルトニアンの一つ一つの固有状態が熱平衡状態の性質を示す、というものである。非可積分系においては、この仮説が一般的に成り立ち、そのことが、孤立量子系が熱平衡状態に緩和する理由だと考えられてきた。この予想に反し、非可積分系であるにもかかわらず、固有状態熱平衡化仮説を破る理論モデルの構築に成功した。 さらに、孤立量子系の熱平衡化、およびprethermalizationと呼ばれる現象の現状の理解について、包括的に論じたレビュー論文を執筆した。 研究期間全体を通して、孤立量子系の熱平衡化、特に、周期外場によって駆動された量子多体系の緩和過程について、理解を大きく前進させることができた。速い外場によって駆動された、熱的に孤立した量子多体系では、一般にFloquet prethermalizationと呼ばれる現象を示すことを数学的に厳密な定理として明らかにすることができた意義は大きい。また、この結果に基づいて、熱環境との相互作用の影響や、可積分性の役割等についても理解を進めることができた。
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