本研究は,神経細胞ネットワーク内で見られる結合様式を模倣して化学振動子ネットワークを構築することを主目的としている.前年度までに,一般的な細胞と同程度のスケール(直径約10um)の油中水滴(エマルション)を作製し,その内部で化学振動反応を誘起することに成功している.今年度は,細胞膜の主要な構成成分であるリン脂質から成る小胞(リポソーム)を作製し,強酸性水溶液中での安定化とリポソーム内部での反応誘起を目指した. 細胞サイズの化学振動子を作製するため,化学振動反応として有名なBelousov-Zhabotinsky(BZ)反応をリポソームに封入した.一般的な組成のBZ反応液はpH 1~2の強酸性水溶液であるが,特定のリン脂質で作製したリポソームは強酸環境下でも安定して存在できることが前年度の研究で明らかになっていた.しかし,酸によって分解された脂質の凝集体なども相当数見られ,それらがリポソーム内反応の観察の妨げとなっていた.そこで,強酸性水溶液中でより安定したリポソームを得るため,種々の検討を行った.その結果,脂質膜の成分組成を見直すことで酸による分解を抑えられることが分かった. 続いて,リポソーム内でBZ反応を誘起することを試みた.様々な条件で検討を行ったが,直径約10umのリポソーム内でBZ反応を観察することはこれまでのところできていない.その原因として,反応に必要な反応中間体である次亜臭素酸の欠乏が疑われた.現在,反応系に次亜臭素酸を適量供給するシステムを構築しており,これを通してリポソーム内での反応誘起を試みている. これまでに得られた成果は,学会発表を通して公表した.
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