研究課題
第二年度の成果として、本研究計画で用いているトランスコリレイティッド(TC)法を、d電子系のひとつであるZnOに適用した。ここで、ZnOのバンド構造を正確に再現するためには、遍歴性の強い電子状態と局在性の強い電子状態との両方をequal footingで正しく記述する必要があり、それは従来の第一原理計算では難しいことが知られている。我々の研究によって、双直交形式に拡張されたTC法を用いれば、ZnOのバンド構造がより正しい精度で再現されることが明らかになった。ここで、長距離的な相関効果(電子間斥力の遮蔽効果)はジャストロウ因子の長距離部分によってある程度取り込まれているものの、近距離相関の取り扱いにはまだ課題が残っており、dバンドの位置をより正確に求めるには、(ハートリーフォック法によるバンド構造との比較から)ジャストロウ因子により多くの自由度が必要となるであろうことも明らかになった。ただし、現時点で用いているシンプルなジャストロウ因子でも、たとえば電子密度を見たときにその局在性が強まっていることから、有効的な二体相互作用を弱める働きがある(別の言い方をすれば、電子間斥力による多体波動関数の変形効果がジャストロウ因子を通してある程度表現できている)ことも同時にわかった。これらの成果は、多体波動関数によって固体の電子状態を記述する上で、重要な知見となるものである。この成果はPhys. Rev. Lett.誌にて発表された。また、スピン分極を持つd電子金属にも順次適用を進めており、適用対象は当初の研究計画通り、着実に広がっている。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、遷移金属化合物にTC法を適用することが出来ており、かつその成果を論文にまとめて発表することが出来た。またジャストロウ因子の長距離部分と短距離部分が、相関電子系の電子状態の記述においてそれぞれどのような役割を果たしているか、という研究計画の中心にあたる事柄に関して重要な知見を得ることができた。強相関金属への適用は中途段階にあるものの、総合的にみておおむね順調に進展しているといえる。
次年度以降も引き続き強相関電子系への適用を進める。またそこで得られた結果を分析することで、計算手法の改善および開発を進めていく。また必要に応じて、異なるジャストロウ因子を試してみることで、ジャストロウ因子が電子状態の記述に果たす役割をより明確に理解することも試みる。
学会および研究会における研究発表の機会が当初想定よりも少なかったため。
本研究計画によって得られた成果を、学会および研究会において発表するための旅費として用いる予定である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件)
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