研究課題/領域番号 |
15K17725
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
作道 直幸 お茶の水女子大学, プロジェクト教育研究院, 特任助教 (50635555)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 量子クラスター展開法 / 2次元ヘリウム3 |
研究実績の概要 |
本年度の成果は、大きく分けて以下の3つである。 (1) 動きが2次元に制限されたヘリウム3系は、基底状態は気体であると予言されてきた。ところが近年、グラファイト表面上に吸着させた理想的な2次元ヘリウム3系の実験により、この系の基底状態が液体となる可能性が示された。この問題について、本研究ではエネルギー汎関数を用いた変分法を用いてエネルギーと粒子数密度の関係を求めた。昨年度までは2次のクラスターの範囲内で計算を行ったが、本年度は3次に拡張した。結果、1粒子当たりのエネルギーは有限の面密度で停留値を持ち、その傾向は基板への吸着の効果を考慮した最近の量子モンテカルロ計算に類似した。またスピン三重項状態の原子対が多く形成される傾向が見られた。この結果の一部は共同研究者が日本物理学会にて報告した。 (2) 昨年度に行ったクォークの少数系に関する研究について国際誌に報告した。本研究は、クォーク系のような非可換ゲージ理論に基づく対象であっても、そのAbelianセクターの自由度を抜き出してくれば物理をある程度説明できることを示唆している。本研究はクォーク系について今後量子クラスター展開法を用いた研究を進める準備研究と位置付けることができる。 (3) 本研究で用いるクラスター展開は、元々はUrsell(1927)やMayer(1937) らが液体論の文脈で古典系に関して開発された。本研究では主に量子系のクラスター展開の研究に取り組んできたが、今年度はこれまでに得られた量子系の知見から古典系についても新たな展開ができないか検討を始めた。その一環として、粘弾性体の研究を行った。結果として、クラスター展開そのものではなく、上記(2)の研究で培った格子ゲージ理論の経験に基づいて、粘弾性体の亀裂進展に関する速度転移の問題について一定の成果を得ることができた。結果は原著論文にまとめ、国際誌で査読中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2次元のヘリウム3系は液体相を持つか、という問題では実験と理論が矛盾している。本年度の研究の結果、実験や最近のモンテカルロ計算と定性的に矛盾のない結果が得られた。この結果は理論に近似を含むため、慎重に解析を進める必要があるものの、近年の実験や数値計算と定性的に一致するため、おおむね順調に進展していると言える。また、閉じ込めの研究は、クォーク系のような非可換ゲージ理論に基づく対象であっても、そのAbelianセクターの自由度を抜き出してくれば物理をある程度説明できることを示唆している。昨年度、Phicical Review D 誌に出版されたクォーク系に関する原著論文は、一年間で10件引用されるなど一定の評価を受けている。最後に、新しく始めた粘弾性体の亀裂進展の問題については、原著論文に投稿し査読中である。このように一年間で大きく分けて三つの研究を進めており、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度行った2次元のヘリウム3系は液体相を持つか、という問題について三次までの計算結果を確定させる。三次までの計算は、ヘリウム3のフェルミ統計性の効果がどのように2次元多体系の液化に効いてくるのかを調べるためには必須である。また、グラファイト基板の効果を考慮して、有効質量を変えた計算も行う。以上の結果を、今年度内にまとめて原著論文として投稿する。また、本年度はあまり行えなかった量子クラスター展開法を用いたフェルミ多体系のBCS-BECクロスオーバーの研究を進めることで、低密度中性子物質の状態方程式の研究を行う。特に、有限な有効距離を持ったフェルミ多体系のBCS-BECクロスオーバーを調べる。来年度は最終年度なので、これまでの研究成果から新たな展開を模索する。特に、今年度の研究成果を踏まえて粘弾性体などの古典系に対象を広げる。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に数式処理ソフトウェアを購入した。もともと定価である232902円で大手販売会社から購入しようとしていたが、別の販売会社に相見積もりを取ったところ、183600円で購入することができた。このため、年度末に4万円以上の余裕が出た。この一部は、同時期に購入した数値計算機のスペックをあげるために使用した(これにより研究課題で必要な数値計算を迅速に行うことができるようになった)。その差額の19,910円が次年度使用額として残った。
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次年度使用額の使用計画 |
科研費申請時に所属していた理化学研究所に比べて、現在の所属であるお茶の水女子大学は、読める論文誌の種類に限りがあり、また図書館にも本研究課題に必要な書籍が十分に揃ってはいない。そのため、差額の19,910円は本研究課題の遂行に必要な図書や論文の購入に使用する。
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