研究課題/領域番号 |
15K17726
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川口 由紀 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (00456261)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 磁気スキルミオン / トポロジカル構造 / 冷却原子気体 |
研究実績の概要 |
下記の2つの研究を行った。 [1] 双極子相互作用するスピン自由度を持ったボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)では、実空間で一様な凝縮体であっても、励起モードは運動量空間でスピン渦状態となる。これは、相互作用が全角運動量(スピン+軌道)を保存する相互作用となっているためである。そこで本研究では、スピン1のポーラー相に対して具体的にBogoliubov励起モードを計算し、これをもとに粒子流(電流)とスピン流の相関関数を計算した。その結果、これらの非対角成分、すなわち垂直方向の流れの間に相関があることがわかった。そこで、応答関数を計算し、磁場勾配を印加した時のホール伝導度を求めて、具体的にナトリウムおよびクロムのBECに対してホールカレントを定量的に評価し、実験で観測する方法を提案した。この結果は、Physical Review A誌に投稿した。 [2] カイラル磁性体の薄膜では、スピン軌道相互作用を由来とするジャロチンスキー・守屋相互作用により、スカーミオン格子やスピンへリックスといった非一様な磁化構造が出現する。本研究では、カイラル磁性体薄膜に強磁性体を接合し、安定な磁化構造を変分計算により求めた。その結果、強磁性体の膜厚が十分に薄い場合にはカイラル磁性体における磁化構造がそのまま強磁性体中へとしみこむが、強磁性体の膜厚が厚くなると、非一様な磁化構造は有限の深さまでしか浸透せず、強磁性体の十分内部では一様な構造となることがわかった。このとき、カイラル磁性体にスカーミオン格子が生じる場合には、強磁性体中に磁気モノポールが出現すること、および、カイラル磁性体にスピンへリックスが生じる場合には、強磁性体中でスカーミオンチャージが1/2の構造が生じることがわかった。この結果はPhysical Review B誌に掲載された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の研究実施計画がほぼ予定通り遂行できた。
|
今後の研究の推進方策 |
下記の2つの研究を行う。 [1] ボース粒子系における運動量空間のトポロジーに関して、スピン軌道相互作用が存在する場合を考える。当初の予定では双極子相互作用とスピン軌道相互作用の両方が存在する場合を考える予定であったが、両方をいきなり同時に扱うと複雑になりすぎるので、スピン軌道相互作用のみを扱うことにする。前年度の研究と同様に、スピン軌道相互作用する擬スピン1/2のBECに対してBogoliubov励起モードを計算し、その運動量空間におけるトポロジカル構造を調べる。 [2] 磁気スキルミオン間に働く相互作用を解明する。当初の予定では、磁化ドープしたトポロジカル絶縁体における磁気スカーミオンの研究を行う予定であったが、研究を進ていくと、単純なカイラル磁性体薄膜の磁気スカーミオンについても未解明の点が多くあることがわかってきたため、計画を変更してカイラル磁性体薄膜におけるスカーミオンの研究を行う。磁気スカーミオンは一般に有限のサイズを持つことから、遠く離れると相互作用しない。一方で互いに近づきすぎると斥力相互作用が働く。これらの中間領域においての相互作用は未解明であり、今年度はその詳細を数値的および解析的に調べる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
中国で行われる国際会議への参加を予定していたが、重なる日程で国内で別の国際会議が行われることになり、国内への出張に変更したため。
|
次年度使用額の使用計画 |
指導学生の学会発表旅費に用いる。
|