研究課題
高分子流体のマルチスケールシミュレーションの,流体シミュレーション部分と高分子シミュレーション部分に関して,シミュレーションコードの改善とパラメータの調整を行った.流体シミュレーション部分に関しては,従来はModified Smoothed Particle (MSPH)法と呼ばれる方法により計算をしていたが,行列の非対称性から生じる数値誤差の累積の問題があった.そこで近年開発されたKernel Gradient Free 法 と呼ばれるMSPH法に似た方法でかつ扱う行列が対称となる方法に変更したところ,数値誤差が低減し,流体シミュレーションを精度よく行えるようになった.また従来の方法ではTensile Instability と呼ばれる流体粒子が筋状にならぶ現象がしょうじていたが,Shifting particle法を用いることで,Tensile Instability を抑制することができることがわかった.高分子シミュレーションに関しては,チューブ理論に基づいたシミュレーション手法を用いていたが,近年チューブ理論を否定する分子動力学シミュレーションの論文が出たため,チューブ理論の妥当な範囲のパラメータ調査を行った.Rouse緩和時間に対するワイゼンベルグ数が10以下ではこのモデルと分子動力学シミュレーションの結果とは定性的な差がないことがわかった.マルチスケールシミュレーションを実施する際にはワイゼンベルグ数が10以下となるような速度勾配の下で行えばよいことがわかった.
2: おおむね順調に進展している
流体シミュレーション手法の改善について,Kernel Gradient法とShifting Particle法の実装を行い,流体計算部分の計算精度について大幅に改善することができたため,当初計画していたことは達成できたと考えている.高分子シミュレーションのアンサンブル平均手法についてはまだ取り組めていないが,平均手法を導入する前に計算が安定しているようなので,まずはこの段階で具体的な問題に取り組んでいこうと考えている.より精度が必要になった場合にアンサンブル平均手法の検討を行う.
Shifting particle法に関しては補正パラメータの値が0.1以上で流動性を失い,0.01以下ではTensile Instabilityが発生することがわかったので,0.01から0.1の間に関して最適な値がどのあたりであるか調べる必要がある.従来法に比べ大幅に計算が安定化したので次は数値計算の精度について調べようと考えている.具体的にはキャビティ―流とよばれる流体計算のベンチマークテストとの比較を行う.また高分子流体の系では渦の形状が粘性流体の場合と異なるということがよく知られているので,マルチスケールシミュレーションを実施し,比較を行う.
2016年度に京都で開催される国際会議(ICR2016)の参加費が7万円と高価であるため,旅費と合わせて,20万円ほどの支出が予想されるため,次年度へ繰り越す必要が生じた.
ICR2016の参加費に充てる.
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
分子シミュレーション研究会会誌「アンサンブル」
巻: 17 ページ: 209-217
Nuclear Fusion
巻: 55 ページ: 073013
10.1088/0029-5515/55/7/073013
http://db.tohoku.ac.jp/whois/detail/22079f21d54c53ae9ef577ba34a6c5c0.html