研究課題/領域番号 |
15K17734
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柳島 大輝 東京大学, 生産技術研究所, 研究員 (00716699)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | コロイド合成 / コロイド分散系 / 回転運動 |
研究実績の概要 |
本研究の主な目的は従来回転が見えない球状のコロイド粒子(粒径0.5~5ミクロ)の回転運動を蛍光顕微鏡観察を用いて観察するため、形状は球体でありながらも蛍光色素の分布が非対称なコロイド粒子の合成法を確立することである。本年度最大の功績は複合的な構造をもつ粒子を合成するために必要な最も基礎的な技術、「コアシェル」粒子の合成法の実現と再現性の向上である。まず核(コア)となる粒子を合成して、その後これに違う蛍光色素の厚い膜(シェル)を付与することによって、蛍光顕微鏡で観察すると中心部分と外殻が違う色の粒子が完成する。これを再現性良く合成するには1、シェルとなる材料の添加速度と2、化学反応が起きる溶媒の体積が大きな影響を及ぼすことが判明した。精密に添加速度を変えられる液体輸送メカニズムを実現して、結晶化出来るほどに単分散な粒子の合成に成功した。 計画で注目されていた二点の課題は1、コアシェルを安定的に合成できるか、そして2、コアが中心からずれた位置にある粒子が作れるかにあった。1はクリアできたが、2は未だ成功していない。シェルがコアのまわりに形成されていく際コアが中心からずれた位置に落ち着くためには1、コアと溶媒の接触の方がコアとシェルの接触より望ましい、2、シェルが形成されていく中、コア・シェルを形作る高分子が再配分できる(液滴のように)、この二つの条件が重要である。今年度は1に着目してコアとシェルの材質を系統的に変えていったが、この効果のみで対称性が崩れた構造を得ることができないことが明らかになった。次年度はコア・シェル双方の流動性を保持するため、開発した合成法の応用も新しい材質を作ったコロイドの合成も両方考え「回転可視コロイド」を実現させたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の主な課題は単分散なコアシェル粒子の合成法の確立であった。原理証明は計画段階で示したとおり存在したが、残されていた大きな課題がシェルになるモノマーの添加速度の制御である。 添加速度が早すぎる場合、現存するコアに加えて二次的な核形成によりシェル材質のみの小さいコロイドが多数できてしまう。添加したモノマーが消耗されていくためコアは育たず、二次的に出来る粒子の大きさがコア・シェル粒子の粒径に近いため分離も極めて困難である。再現性良く遅い添加速度を保持するためシリンジポンプを利用してガラスシリンジからのモノマーの添加を試みた。しかしモノマー混合液の表面エネルギーがとても低いためシリンジから漏洩が多く、添加されたモノマーの量が不明確であった。そこでモノマーを封入したガラス管瓶に空圧を加えることで徐々にモノマーが押し出されていく輸送システムを実現した。すると5秒に約10mg程度の添加スピードを実現できた。 更に核形成を抑制するために反応体積を大きく増やした。すると期待していた効果に加え上記で挙げた問題点2、つまり凝集体が大きく減った。コアとコアの間の距離が開いたため、隣接した状態で成長するコアが大きく減り、これにより繋がった凝集構造が出来にくくなったと考えられる。 コアシェルの合成プロトコルの完成後、コアが中心からずれた「回転可視コロイド」の合成へ移った。しかし当初考えていたコア・シェルの相対的な安定性を利用したコアの移動は未だ成功していない。安定剤の分子量や割合を変えることによってコアと溶媒の相互作用を変えることはできたが、シェルの形成スピードに若干の変化が生じるのみで、コアが表面付近に移動することはなかった。 複合的なコロイド構造を目指す以上、コアシェル粒子の合成プロトコルが完成したことは大切だが、未だ回転可視コロイドに至らないため、計画以上の進展は認められないと考える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画ではコアとシェル双方の溶媒との相互作用の差を使い非対称な構造を作ることが計画であった。しかし本年度の実験を元に考えると、これを実現するにはもう一つの要因が必要であることが判明した。これはシェルの成長と共にに内部の高分子構造が「緩和」できることである。つまりシェルの成長が少し進んだ地点でもコアが表面へ移動して最安定状態を保つことができることである。これを実現するためには形成過程のコロイドの流動性を保持する必要がある。大きく分けて三つの解決法が考えられる。 1、コロイドを形成する高分子の分子量の制御。これは連鎖移動剤という添加物の量を調節することによって可能ではあるが、基本的な粒子形成過程に多大な影響を及ぼすため、調節幅が狭い。 2、合成温度を上げる。コロイドを形成するPMMAというプラスチックは比較的低い「ガラス転移温度」(柔らかくなる温度)をもつ。あまり高く設定するとシェルの成長に加え小さく不安定な高分子の凝集体が形成されてしまうため、最適な温度を探る必要がある。 3、今現在PMMAという高分子によって形成される粒子を利用しているが、液滴から固体粒子へと反応中に変異する「エマルジョン高分子化」という合成手法が存在する。実験手法としてはこれまでと同じノウハウが生かされるが形成メカニズムがまったく違う。特に重要なのは形成過程でコロイドが液滴から生まれる点である。この手法を詳しく学ぶために他研究室を訪問することも検討している。 コアシェル合成法が確立された今、これを最大限に生かして回転可視コロイドの実現に向けて実験を続行する計画である。しかし更に高いハードルの存在が明らかになった場合は研究計画で挙げた他の合成手法(コロイドゾームやコロイド膜への蛍光塗装)に加え、違う色の蛍光ナノ粒子を付与する等新たな考察も含め、柔軟な対応を心がけてプロジェクトを進める所存である。
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