研究実績の概要 |
本研究は超解像フォトサーマル顕微鏡を用いて、ソフトマター系のナノスケールの非平衡過程の解明を目的とする。具体的には(1)非一媒質中のナノ領域の熱伝搬、(2)熱発生によって引き起こされる非平衡下でのナノ粒子の運動を測定する。さらにこれらの測定結果から熱伝搬(散逸)とそれにより引き起こされる非平衡下の運動との関係について明らかにする。
最終年度は上記の測定を行うための装置を完成させた。高感度でナノ粒子の運動とその近傍の熱伝搬計測を行うため、前年度までに提案した新しい光検出法を既設の顕微鏡に実装する必要がある。そのために受光面積が大きく、かつ光刺激による熱応答を測定するため10MHzの帯域をもつバランス型光検出器を設計・製作した。光検出回路の素子を最適化することで雑音等価電力を既設の光検出器と比べて1/15に低減させることができた。さらに波長安定化半導体レーザーを導入し、強度雑音を抑えショット雑音限界の高感度で測定できるようになった。また信頼性の高い熱拡散率の計測のために、多周波数での熱刺激応答を同時に測定できるシステムを完成させた。またガルバノミラーを用いて単一分子(ナノ粒子)を高速追跡するための光学系の構築と制御プログラムを作製した。
以上の装置製作を終え、実際にアガロースゲル中の金ナノ粒子を対象にその動きと近傍の熱拡散率を計測した。ゲル中にトラップされた状態の金ナノ粒子は光刺激によりホッピング運動を起こす様子が観察された。光刺激の大きさを変化させながら粒子の動きを時間分解能9 ms, 位置精度12 nmで追跡し、同時に近傍の熱拡散率を測定した。さらに統計的解析からそれらの関係を明らかにした。
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