研究課題/領域番号 |
15K17738
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
客野 遥 神奈川大学, 工学部, 助教 (10746788)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 水のナノサイエンス / カーボンナノチューブ / 疎水性 / 構造 / ダイナミクス |
研究実績の概要 |
制限空間内に閉じ込められた水は、バルクとは異なる振る舞いを示す。これまでに研究代表者らは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)に内包された水の研究を行ってきた。その結果、直径1.6 nm以上のSWCNTにおいて、内包された水の一部が低温でSWCNT内部から外部へと排出される現象(wet-dry転移)を見出した。本研究の目的は、このwet-dry転移の機構を明らかにすること、および内包水の物性の温度、空洞径、圧力などに対する依存性を系統的に明らかにすることである。昨年度の研究では、wet-dry転移はSWCNT内外の水蒸気相を介して起こることが明らかになった。 本年度は、wet-dry転移温度(220-230 K)よりさらに低温での内包水の物性に着目した研究を行った。まず、直径の異なる5種類のSWCNT試料(平均直径1.68 nm以上)に水を内包させ、X線回折(XRD)実験や示差走査熱量(DSC)測定を行った。その結果、wet-dry転移温度より低温(200-210 K)において、内包水の構造が著しく変化することが示唆された。この転移温度はSWCNT直径に依存し、直径が大きいほど高くなる。以上の結果は、昨年度の研究成果と合わせて、2016年8月にJ. Chem. Phys. 誌にて発表した。現在は、核磁気共鳴(NMR)測定を用いてSWCNT内包水の回転ダイナミクスを詳細に調べており、内包水が低温下でも非常に速い回転運動をしていることを明らかにしつつある。 また、昨年度に予期せず明らかになった、水雰囲気によるSWCNTへのキャリアドープに関連して、SWCNTバルク試料の熱電物性の研究も引き続き行っている。本年度は、高濃度ドーピングによりSWCNT薄膜の熱電物性が向上することを明らかにした。本成果は、2016年11月にAppl. Phys. Express誌に発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画・研究目的に基づいてXRD実験やDSC測定を行った結果、wet-dry転移温度(220-230 K)より低温(200-210 K)においてSWCNT内包水の構造転移を見出した。本研究成果は、日本物理学会などにおいて発表をし、2016年8月にJ. Chem. Phys. 誌に発表された。現在、SWCNT内包水の低温下のダイナミクスを明らかにする目的でNMR測定に着手しており、内包水が低温下で非常に速い回転運動をしていることを明らかにしつつある。 また、昨年度予期せず明らかになった、水雰囲気によるSWCNTへのキャリアドープに関連して、SWCNTバルク試料の熱電物性の研究も引き続き行っている。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、NMR測定と古典分子動力学(MD)計算を用いて、SWCNT内包水の回転ダイナミクスを明らかにする。具体的には、内包水の回転相関時間のSWCNT直径依存性を明らかにするとともに、内包水の構造転移がXRD実験によって確認されている温度領域(200-210 K)において回転ダイナミクスに異常があるかどうかを調べる。また、先行研究で報告されているSWCNTの高い水輸送度に対して、回転ダイナミクスが果たす役割を明らかにする。必要に応じてSWCNT以外のナノ材料についても類似の研究を行い、結果を比較して議論する。 第二に、様々な直径のSWCNT試料について高圧下のXRD実験およびNMR測定を行い、内包水の高圧下の物性を明らかにする。 上述の研究に加え、水雰囲気によるSWCNTへのキャリアドープの研究も継続し、その機構を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、量子化学計算用コンピュータおよび量子化学計算ソフトウェアを購入する予定であった。しかし、本年度はXRD実験、DSC測定、NMR測定、およびMD計算を用いて内包水の構造やダイナミクスを明らかにする研究を集中的に行ったため、次年度繰越金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
高圧下実験用のXRD圧力セル、NMR圧力セルを購入し、高圧下実験を行う。これに伴い、SWCNT原料と精製用薬品を購入する。また、熱電測定用にコンピュータを購入する。論文投稿費や国内旅費(学会発表や学外研究機関でXRD実験を行うための旅費)としても一部使用する計画である。
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